「あの・・・」

「どうした?まだ気分悪い?」


俺が呼び出しに戻ろうと立ち上がると彼女も立ち上がり俺を呼び止めた。

もしかしてまだ気分悪くなってきたのか?顔色もそんなによくないし。


「大丈夫?」

「はい。あの・・・携帯教えてもらえませんか?
な、なんかこのまま終わりにしたくないって思って・・・」

「携帯?」

「あ、いや無理ならいいんです。すいません」


そう言って彼女がまた人ごみに戻ろうとする。

かと言って今携帯を教えるわけにはいかないし。

呼び出しがかかるってことはもう花火が終わる寸前ってことだしな。

俺はしばらく考えて彼女を呼び止めた。


「あの・・・」

「え?」

「今から戻らないといけないから携帯、今は教えられないけど
来週の日曜日またここで会うってのはどうかな?」

「え?」


俺の呼びかけに振り返った彼女。

俺は離れていった彼女に近づいていく。

俺だってこのまま終わりたくなんてない。

彼女から携帯を聞かれるなんて願ってもなかった。

仕事さえなければいいのに。

それにしても彼女はなんと返事するだろう?

ただの興味本位だから会うのは嫌とか。

言ったあとで少し後悔した。


「はい。ここに11時で。必ず来ます」

「ありがとう」


俺の姿を待つかのように振り返ったまま立ち止まっていた彼女。

顔色の悪かった頬に赤みもかかってる。

彼女の返事を聞き、謝って

日曜日にと一言言って俺は一目散に現場に戻った。

現場は人でごった返している。

彼女は無事に友達と合流できるだろうか。

いや今はそんなことを考えてちゃいけねえ。

この人ごみをどうにかしなきゃいけねえんだから。

それにしても日曜日、本当に彼女は来てくれるだろうか。

俺は北南さんに怒られながらも彼女のことばかり考えていた。

今日のいじめもさほど気にならないくらいに。





  


  side Suzu