「今年も恒例の警備員いじめあるんすかね?」

「あるだろな」


俺は憂鬱な気持ちだった。毎年あるこの警備員いじめ。

暴力を振るわれるわけじゃねえけどやじが飛んでくる。

制限すると止めるなとか回り道させると遠回りだとか。

俺が決めるんじゃねえ。

大体制限しねえとドミノ倒しになるだろうが。

遠回りさせねえとそこが混雑して一般のやつら迷惑がかかるだろ?

そんなこともかまわず自分らのことばっかいいやがって。

俺らはお前らのために制限してるんだよ。

そんなこともわかんねえやつらを俺は入場制限したいくらいだぜ。
      

「俺ら何も悪いことしてないっすよね」

「ああ。でもいつもやじられるのは警備員だな」


おっさん警備員。もといこの人も俺の上司だけど。

同じ場所に配属された北南さんと話す。

確かに給料はいいけど、俺もこのときばかりは警備員をやめたくなる。

いっそのこと大雨でも降ればいいのにって毎年思うけど

俺が彼女作ればいいだけか。

 
「はい。立ち止まらないで前に進んでください」


溢れんばかりの人に声掛けしていく。

まったく派遣なんてびびっちまって拡声器すら使ってねえ。

そんなんじゃ聞こえねえよ。

ただでさえ人の声でありえねえのに。しゃあねえな。

俺が派遣の言ってることを拡声器を使って伝える。

あーそっちは行き止まりだっての。

そんなとこで立ちどまんな。だからそっちには行くなよ。あーしんどい。

明日は絶対昼まで爆睡してやる。


「はい。そっち行かないでください」

「・・・がたがたうるせえな」


4人組のチャラ男が俺に言う。

うるさく言わせてんのはてめえらだろうが。

大体男だけで花火大会に来るってのもどうかと思うけどね。

それとも浴衣の女の子でもナンパする気か?まあ俺には関係ないけど。

警備員にたてつくなよ。見た感じ確実にお前らのが年下だし。


「はい。そこ登らないで」

もういい加減言うこと聞けよ。腹立つな。

今日はビール一本じゃおさまらねえわ。

花火が始まった。なんだ?今年の花火かなりしょぼくねえか。

こんなに人が集まってこんなにしょぼいものなのか。

それを感じたのは俺だけじゃなかったみたいで周りのやつらもざわめいている。

そりゃそうだよな。

こんな人ごみの中見たくて来たのにそれがこんなしょぼい花火じゃな。


「すず、見える?」

「んーかすかに見える」


女の子の声が聞こえてきた。そりゃ見えねえわな。

俺だってあんまり見えないし。

特に女の子は見えねえかもな。かわいそうに。

こんな人ごみの中来たのにさ。

ふとその子のほうに視線を向けると気分の悪そうな顔をしてる。

人ごみに酔ったんだろうな。

なぜか俺はその子から目が離せなかった。

そしてその子は友達から離れ、人ごみを避けた場所に移動していく。


「すいません。ちょっと気分悪い人いるみたいなんで俺見てきます」


北南さんにそう言い、俺は人を避けて彼女に近づく。

本当に気分が悪いみたいだ。

俺はハンカチを口に押さえてしゃがみこんでいる彼女に近づいた。





  



  side Suzu