かっこいい。

舌をだして笑顔でいうその姿があたしの目に焼きついた。

でもこんなにかっこいい人がどうしてこんな日に仕事なんてしてるんだろ?

きっと無理やり出勤させられたんだろうな。彼女かわいそう。


「彼氏に連絡しなくても大丈夫?」

「・・・友達と来たんです。彼氏なんていませんよあたし」


いたらきっとそばにいてくれるはずだよ。

友達は花火見てるし、ほんと心細かった。


「友達もひどいね。一緒にいてくれればいいのに」

「そんな。彼女たちは花火見たいと思いますから」

「優しいんだね。君は花火見れなくてほんとにいいの?」

「・・・いいんです。あたしは別に最初から来たかったわけじゃないですし。
友達に言われて来たって感じですから。彼氏がいたら別だったかもしれないですけど」

「そっか。俺もそんなもんかな。彼女いないから出勤させられたってやつ」


えー彼女がいない?あたしはその言葉に目を丸くして驚いた。

だってこんなにかっこいい人だよ。

何で彼女がいないの?何で何で?なんで?

あたしは謎でいっぱいだった。そしてそれからあたしたちは話を続けた。

あたしがいやいやここにきたこととか、警備員さんの会社の彼女特権のお話とか。

でもそういえば警備員さんの名前って・・・


「そういや、名前聞いてなかったよね?俺はこれ小日向陽(あきら)。27です」


あたしがそう思った瞬間に警備員さんがそう言った。この人すごい。

あたしの思ったことがわかるんだ。それにしても素敵な名前。


「素敵な名前。本当に太陽がいっぱいって感じで」

「そうかな。俺はあんまり気にいらねえけど」

「素敵ですよ。あたしは設楽すず。20歳です」

「すずちゃんか。それこそかわいい名前じゃないか」


そんなこと言われたの初めてだよ。

なんだかすごく安心できてあたしはしんどかったことも忘れていた。

そんなとき小日向さんに無線で呼び出しがかかった。

小日向さんはもう行かないとと言って立ち上がる。これでおしまい?

せっかく出会ったのに。あたしは勇気を出してみた。

   
「あの・・・」

「どうした?まだ気分悪い?」


そうじゃなくって。あたしが声を掛けると小日向さんはそう言う。

それだけ心配してくれてるんだろうけど。


「大丈夫?」

「はい。あの・・・携帯教えてもらえませんか?
な、なんかこのまま終わりにしたくないって思って・・・」

「携帯?」

「あ、いや無理ならいいんです。すいません」


せっかく頑張って出した勇気も見事撃沈。そうだよね。

だって警備員さんとただの観覧客だもん。なんか居づらい。

あたしは友達のところに戻ろうと歩き始めた。

あー言わなきゃよかった。とぼとぼ歩く。

サンダルの音が響くってことはもう花火は終わったのかな。


「あの・・・」

「え?」

「今から戻らないといけないから携帯、今は教えられないけど
来週の日曜日またここで会うってのはどうかな?」

「え?」


急に呼び止められそう言われた。

だんだんと小日向さんが近づいてくる。嘘でしょ?

いいの?また会ってくれるの?

あたしはドキドキしながら彼を待った。


「はい。ここに11時で。必ず来ます」

「ありがとう」


顔が熱くなるのが分かる。きっと赤い顔してるんだろうなあたし。

小日向さんが急いで現場に戻る後ろ姿をずっと目で追っていた。

あ、友達のところに戻らないと。

携帯で友達に連絡して合流する。

大丈夫?顔が赤いから熱でもあるんじゃないっていわれてしまった。

違うよ。

あ、でも別の意味で熱はあるかもしれない。

帰り道、行きかう警備員さんの顔をじっくりと見てしまう。小日向さんいないかな。

でも日曜日、本当に来てくれるのかな。もし来なかったらどうしよう。

行きはつけた友達の話の相槌もつけないくらいに

 あたしはずっと小日向さんのことばかり考えていた。





  
 

  side Akira