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慧くんに会えるって思うだけで嫌な受験勉強も頑張れる。

慧くんの笑顔に触れたらそれだけで一日の疲れが吹っ飛ぶ。


「おつかれ」

「慧くんも」


塾の前で会うとその言葉を交わすのが日課。そして手をつないで歩く。

私の塾の終わる時間が遅いときは慧くんが家まで送ってくれてそれで終わりだけど、

今日は少し早く終わったのであのコーヒーショップで寄り道。

窓から見える風景はもう夏の面影もなく、赤や黄色の葉が色づいていた。


「はい」

「え?」

「お守り」

「お守り?」

「受験生だろ俺ら!これはお互いが合格するように」


向かい合わせに座った席で慧くんがこそっとかばんから出して私の手の上に置く。

チェックの細長い袋。目で開けてごらんと合図されたのでそっと開いた。


「ストラップ!!」              

「そ、俺のとお揃い」


私の手には≪Dream come true ≫と書かれているシルバーのロゴのストラップ。

慧くんの手には同じストラップがついた携帯が握られていた。私は携帯を取り出す。

その携帯には一度もはずしたことのないあの人からの贈り物がついている。

私はそれをそっと外し、慧くんのストラップをつけた。


「お揃い」

「ん」


2人が笑顔になる。高校3年生の秋、

私は今でもずっと大切に持っている二つ目の宝物を手に入れた。今でもずっと。

       
冬になると、行事がたくさんある。でも私達にはそんな暇はない。会う時間もめっぽう減り、

メールも少なくなった。それでも私にはあのストラップがある。

だからこそ、会えない時間も辛くなかった。


数ヵ月後、私は無事志望校に合格した。

その報告をするために今日慧くんに3ヶ月ぶりに会う。

初めてのデートのときのように何を着ていこうかにらめっこは変わらない。

それにすごく会いたかったからドキドキしていた。

待ち合わせ場所に行くと慧くんはまた相変わらずおしゃれな格好をしていた。

  
「・・・また遅刻しちゃってごめん」

「そんなんいいよ。それより合格おめでとう」

「慧くんこそ合格おめでとう」

「おう。それより琉希、今日は話したいことがあるんだ」」
                 
           
慧くんも無事大学に合格した。春からまた別々だけど不安はないはずだった。

いつもとは違う慧くんの態度。どこか伏せ目がちで私の好きな笑顔はない。

黙って歩き出す。私はそれについていくしかなかった。ついた場所は海が見える公園。

冬の寒さが身にしみる。人気はあまりない。目についたベンチに腰かけた。

               
「・・・琉希」

「ん?」

「俺、本当に琉希が大好きだった。琉希といるとずっと幸せで本当に満たされた」

「ど、どうしたの?急に」

「・・・ごめん。もう嘘はつきたくないんだ。俺、はるきを愛してる」

               
頭が真っ白になる。慧くんが何を言っているのかも全然わからないくらい。

聞こえない、見えない、何もかもすべて灰色になる。でも慧くんは言葉を続けた。


「俺、あいつしかいらないってそう思ってた。
でもあいつは俺を見てくれないし、彼氏にもらったってストラップ自慢してきたりしてさ。
やけになって琉希に声をかけた。どうせすぐに別れるなら誰でもいいって。
でも琉希と会うたびに本当に琉希が好きになって、琉希を愛する自信もあった。
でも・・・ごめん。もう決めたんだ。俺はるきを幸せにしたい」


バチが当たったんだと思った。私も慧くんの言っていることがすごく分かるから。

私たちは同じ気持ちだったんだ。お互いに。私は何もいえない。

私だって同じことをしたんだから。


「ごめんな琉希」

「ううん。謝らないで。私も同じ。私もね、叶わない恋をしてたの。
そんなときに慧くんに会ってこの人ならって思った。
実際私も本当に慧くんを好きになったし、愛することもできると思った」

「琉希」

「私たち、こんなんじゃダメだよね。別れよう」


高校3年生の夏に出会った一つの恋は春の訪れを待たずに散った。