あれから5年の月日が流れた。私は企業に就職し、毎日忙しい日々を送っている。  


 「琉希ちょっといいか?」


仕事から帰り、くたくたで部屋に入ってベッドに伏せているとおにいちゃんが

私を呼んだ。ちょっと待ってとベッドから起き上がり、ドアを開ける。

おにいちゃんは部屋に入るとベッドに腰掛けた。

私もドアを閉めておにいちゃんの横に座った。


「琉希、おにいちゃん結婚しようと思うんだ」

「え?それほんと??」

「あぁ〜今度彼女連れてくるから会ってくれるか?」

「うん。もちろん。おめでとう」


おにいちゃんが結婚する。幸せな顔をしたおにいちゃんに私は笑顔を返した。
                   

そして迎えた日曜日。その彼女が来る日。家族はそわそわしている。

私はそんな風景を見て嬉しくなった。

家族全員がおにいちゃんの結婚相手にわくわくしているんだから。

そして彼女を連れておにいちゃんが家に入ってきた。私たちは玄関で出迎えた。


「はじめまして」


白いワンピースに巻いた髪の毛、ヒールの高いミュール。

姿は完全に違っていたけれど、私はその人が誰かすぐにわかった。

           
「どうぞ入ってください」


お母さんが笑顔でスリッパを出す。彼女は会釈し中に入ろうとした。

私は彼女の腕を掴んで止めた。この家に入れるわけにはいかない。


「琉希何してるんだ!!」

             
おにいちゃんが私の掴んだ腕を放そうとする。でも私は離さない。

そして彼女の顔をじっとにらみつけて名前を呼んだ。力強く。


「久しぶりですね。はるきさん」

 
彼女は驚いた表情で私を見る。私は彼女の腕引っ張り、靴をつっかけて外に出た。 

おにいちゃんが追ってくる姿が目に入ったけれど振り払うかのように走る。

おにいちゃんの姿が見えなくなったころ私は足を止めた。そこは小さな公園だった。


「琉希ちゃん・・・」

「どうしてあなたがおにいちゃんの婚約者なの?」


彼女は私を見て驚いている。無理もないだろう。

彼氏の家に行ったと同時に妹に追い出されたのだから。

でも私には彼女を認められない理由があるのだから当然だ。

彼女を幸せにしたいといって別れた慧くんはどうなるのだろうと。


「琉希ちゃん、あなた優の妹だったの」

「驚いたわ。まさかあなたが来るなんて思わなかったもの」

                  
彼女の携帯が鳴る。ちらっと写ったストラップ。私がずっと大切にしていたストラップと

まったく同じものだった。慧くんが言ってた知り合いと同じストラップは彼女のもの。

彼女は電話には出ず、私を見て口を開いた。


「優とはもうかなり長い付き合いになるのよ。このストラップも彼がくれたわ」

「おにいちゃんを愛してもいないくせに・・・」

「どういうこと?私は彼を愛してるわ。だから結婚するのよ」

「じゃあ慧くんはどうなるの?はるきを愛してるから別れてくれって言われたのよ」

「うそ・・・。そんなこと聞いてないわ。いつ?いつ別れたの?」

「もう5年になるわ。二人はうまくいってるんだと思ってた」

「うそ・・・じゃあ・・・」


私が言った言葉に彼女を口を押さえて信じられないような顔をして見せた。

じゃあこの5年間一体彼は何をしてたの?


「慧くんとは会ってないの?」

「あの子、琉希ちゃんとうまくいってるって言ってたわ」


彼は嘘をついていた。どうして?彼女を幸せにしたいって言ったから別れたのに。

私ははるきさんに携帯を借りて慧くんに電話をした。彼はとても驚いていたけど、

今から会いたいというと快諾してくれた。

彼女を私の家まで送り届け、私は待ち合わせのコーヒーショップに向かった。