こい?と太陽銭湯???



「ここ変わってるな」


そう言ったのは明海だった。それはいつもの銭湯。夏柘の銭湯では考えられないことが
ここでは当たり前になっていた。


「男も女も関係なく入り口は一つなのね」


そう、それは今の銭湯にはめずらしくはないとは思うが、入り口が一つだということだった。
オンボロ銭湯では入り口が別で中ではのれん一枚で男湯、女湯行き来できるので4人にとって
は不思議に思えてならなかった。そして4人一緒に入り口の引きドアを開けた。


「いらっしゃいませ」


そこで目にした光景は4人の銭湯に対する考えを全て否定するような作りだった。まずここに
は番台は存在しない。男湯、女湯と書かれたのれんは同じであるがその真ん中に受付のよう
なものがあった。そして横には券売機。見渡すと自動販売機までもが置かれていた。


「これ買うのよね?」
「多分な」


4人はためらいながらも券売機にお金を入れて入湯券を購入した。そしてその券を受付のよう
な場所に渡す。そこには自分の親と同世代くらいの女の人が座っていた。


「はい。では女の方は左側。男の方は右側にどうぞ」
「じゃぁまたあとで」
「おう」


そして、柚は女湯に、明海、卓真、夏柘は男湯にと分かれたのだった。


「ここが女湯ね」


柚はのれんをくぐった。そこはとても広々としていて旅館の温泉のような脱衣所。床も綺麗で
ロッカーもとても使いやすそうで新しくできた銭湯のよう。柚は服を脱いで浴室に入っていった。


「(広い、綺麗、何をとっても素晴らしいとしか言いようがないわ)」 


柚は周りをきょろきょろしながらそんなことを考えていた。中にあったお風呂の数は5個を越え
ている。その頃浴室に入った男3人も同じような会話をしていた。


「なんかすごいおっきい風呂だな」
「本当だよな」
「俺、オンボロ風呂再生する自信なくなってきた」


3人とも完全に圧倒されていた。


「うぉーすごいぞオレここ入ったら溺れそうだからあっちの風呂行く」
「あっ、そっかお前一人前のような存在感だから4歳だって忘れてた。一人で行けるか?」
「おう!!オレは一人で行く」


そう言って明海は浅い風呂に一人入りに行った。


「なぁ夏柘、あいつさ、俺のこと好きだと思わないか?」
「あいつ?あいつって明海のこと?」
「んなわけないだろ!!柚だよ!柚!!」
「あー柚か。わかんない」

「お前鈍いなぁ。あいつ最近女らしくなってきただろ?たぶん俺のことが好きだからと俺は
思うんだよな」
「?(俺を見返すためとか言ってたような・・・)」
「やっぱ女って恋すると変わるって言うだろ?俺、あいつに応えてやるべきかな?」
「???いや俺、よくわかんない。そういうことは。あっ!明海一人で大丈夫か俺見てくる
よ!!(卓真って・・・バカだよな)」

「お子様には恋愛なんてわからねぇよな!お子様はお子様同士仲良くしてこい」
「ああ(お前が一番お子様だろうが)」


そう言って夏柘は明海のところに行った。そして柚は体を洗って一通り全ての湯船につかり、
風呂から上がっていた。脱衣所に戻った柚は、来たときと違う雰囲気になっていることに
気がついた。


「誰?あの子?」
「さぁ?どっかのよそのもんじゃない?」
「あーなんかこの辺りの銭湯つぶれたって言ってたからそこから流れてきたんでしょ」
「あーそうかも。でもよそもんが来るなって感じよね」


柚を見て2人組の中年の女の人がぼそぼそ言っていた。聞きたくなかったがその二人は柚の
隣に来てまた同じようなことを言う。


「よそもんは自分の家の風呂に入ってればいいのよ」
「ほんとほんと。邪魔!邪魔!」

「(何この人たち!!あんたたちの銭湯じゃないでしょ!!)」

「早く着替えて出て行けって感じよね」
「そうそう。さっさと出て行ってほしいわぁ」


柚もさすがに今の言葉にはブチっとキレ、黙々と着替えを済ませたあと、その二人をキッと
睨みつけた。


「あんたたちの銭湯じゃないでしょ!!お金払ってるんだから文句言われる筋合いないの
よ!!そんな3段腹プルプル震わせたおばさんにそんなこと言う権利はないんだから!!」

 
今となってはめずらしいキレ柚。しかし、さすが、明海、卓真をびびらせた相河柚!!その貫禄
と態度に2人組の女性も口を摘むんで言い返すことはできなかった。柚はそれだけ言うと怒り
態度のままのれんをくぐって出た。


「マジでむかつく!!」


受付のところに出ると、男3人はまだ来ていなかった。柚は怒りを鎮めるために自動販売機の
前に行く。


「(ここのジュースなんてどこでも買えるじゃない)」


しかし、自動販売機を見ると、並んでいるものはどこででも買えるようなジュースだった。
フルーツ牛乳なんて到底置いてるはずがない。柚は出しかけた小銭をそっと戻した。


「柚―!!」
「あっやっと出てきたわね」
「だいぶ待った?」
「ううん。そんなことないわよ」
「じゃあ何か飲むか?」

「帰りましょう!!」


そう言って柚は明海の腕を引っ張り出て行く。卓真と夏柘は顔を見合わせてその後を追った。


「どうしたんだ?柚」
「もう二度と来ない!!こんな銭湯!!」
「(やばい。またキレ柚になるかもしれない・・・)」
「柚、何かあったの?」


柚は怒りを全てぶつけるかのように銭湯の前で言った。


「確かにここ設備も環境もいいかもしれない、綺麗だし広いもの!!でも銭湯といえば番台
でしょ!!番台はないし自動販売機でどこででも買えるジュース売ったり、極めつけは!!
三段腹のおばさん!!」
「はぁー?」
「あたかも自分の銭湯のように私をよそ者だって言って!!!!!!」

「柚、帰ろう。でフルーツ牛乳飲もう」
「う、うん」


怒り爆発の柚をとめられない卓真と明海。でも夏柘はそっと柚の肩をたたいてそう言った。


「怒ると疲れるし、それにここ以上の銭湯にしよ!名前は・・・太陽銭湯とかにしてさ」
「太陽銭湯?」
「まぁそれはまた決めるとしても帰ろう」

「あの柚を止めた・・・」
「柚がおとなしくなった・・・」
「(なんだろ?私・・・夏柘に言われたことで怒ってたことがバカバカしく思えてきたかも。
私、夏柘が言うことなら・・・なんでも聞けるのかな?私・・・夏柘が・・・)」


とうとう柚は夏柘にlove???と思わせるような思いを抱きだした。しかし、どうなるか?
あいにくの夏柘は鈍感?それにまだ勘違いしている卓真。でも・・・太陽銭湯って・・・すごい
名前。それもどうなるか?