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”ものゆる”温泉視察会!!
毎朝、早起きして自分の持っている服とにらめっこするのが習慣になっていた。一方どこをどう 勘違いしたのかおバカな卓真は・・・寝ても冷めても四六時中柚のことを考えていた。 「あいつ・・・いつから俺のこと・・・好きなんだろう?」 誰か止めてあげてください!!銭湯のほうはというと順調に掃除も進み、着々と綺麗になって きていた。しかし、柚はいざ銭湯を再生させるとはいえ、銭湯というものを昔のときの記憶でし か覚えていない。そして朝、家を出る前にふと思いついた。 「そうだ!!明海今日、銭湯行くよ!!!」 「何言ってるんだ?銭湯なら毎日行ってるじゃないか」 「違うわよ!視察に行くの!!」 「しさつ?」 柚は銭湯を視察しようと電車に乗って一番近い銭湯に行くことにした。 「視察かぁーいいかもしれないな」 「でしょ?こないだからずっと考えてたのよ。銭湯を知るためにはまず銭湯を知るってね」 「それいいと思う。じゃぁさっそく今日早めに掃除終わらせて行こう。中に卓真いるから言って あげてよ」 「うん」 オンボロ銭湯につくと、真っ先に夏柘はいた。柚は夏柘の元に行き、それを告げる。夏柘は また今日も柚よりも早く来て、下駄箱を磨いていた。 「おはよう卓真」 「よ、よう」 「なーんだ早く来てるわりには何にもしてないのね」 銭湯の中に入っていくと卓真が扇風機をかけて椅子にすわってくつろいでいた。 「ほんとにお前役立たずだな!!」 「明海の言うとおりだわ。あきれてものも言えない。夏柘はもう掃除してたっていうのに」 「あいつはここの息子だろ。俺らは手伝いなんだしさ」 「お金のためでしょ!!」 「そ、そんなことねえよ。さて始めるか。あっ柚今日もうち来るだろ?」 「あっごめん。行かないわ。今日は銭湯に行こうと思って」 「銭湯?」 「そ!だから今日はいいっておばさんに言っておいてね」 「・・・わかった」 そう言って3人はまたそれぞれに分担した仕事を始めだした。・・・何か変です。お気づきに なられただろうか?さっきの柚と夏柘の会話をもう一度思い出してみよう 「視察かぁーいいかもしれないね」 「でしょ?こないだからずっと考えてたのよ。銭湯を知るためにはまず銭湯を知るってね」 「それいいと思う。じゃぁさっそく今日早めに掃除終わらせて行こう。中に卓真いるから言って あげてよ」 「うん」 夏柘は卓真に言ってといいましたが柚は言うことは言ったが誘ってはいなかった。忘れている とは思えないのだが・・・実際はどうなのだろうか? 「おい!柚あいつに銭湯行くって言わなくていいのか?」 マッサージ機を座って磨いていた明海が今日は番台を拭いていた柚に言った。ちなみに卓真 はのれんを外して外で手洗いしている。普通に洗濯機でやればかなりお手軽だが、彼は銭湯 の前でのれんを洗うからこそ客引きになるといって炎天下の中自らやると言ってやっていた。 「言ったじゃない」 「でも柚一緒に行こうとは言わなかったぞ」 「えっ?!そうだっけ?」 プレイボーイの明海くんは何気にこの中で一番敏感かもしれない。いやこのメンバーが人知れ ずに鈍感なのか?彼だけが卓真を不憫に思っていた。そして・・・ 「柚は・・・あの役立たずには全く興味がないなぁ。かわいそうに・・・」 とぼそりとつぶやいた。その頃、外でのれんの手洗いをしていた卓真はというと・・・ 「今日、柚、来ないのかー。いや、何言ってんだ俺!!これじゃまるで俺があいつのこと好き みたいじゃねえか!!いや違う!俺は、あいつが俺を好きだから気になってるだけで・・・」 「お母さんあのおにいちゃん、何か言ってるよ・・・・」 「しっ!見ちゃだめよ」 通りすがりの親子に変な目で見られていることもおかまいなしに暴走独りごとは続いていた。 そして・・・掃除もいいくらいになってきたので、今日は早めに切り上げて、銭湯視察に行くこと になった。 「じゃあ行きましょうか」 「おい夏柘!お前も行くのかよ?」 夏柘が銭湯に鍵をかけて3人が違う方向に足を向けようとしているのに自分だけは家路方面 に足を向けようとした卓真が怒鳴りつけた。 「えっ何言ってんだ?お前もいくんだぞ」 「は?」 「あっ言うの忘れてたけど、今日は視察だから卓真も行くわよ」 「俺も?」 言い忘れていたことも全く悪びれる様子もない柚。卓真は何か違うなぁと思いつつ、着替えを 取りに家に帰った。ちなみに夏柘は柚から聞いてすぐに家に戻って着替えを準備してきていた のだった。そして一向は銭湯視察へと向かうため電車に乗った。。 「とりあえず今日は“ものゆる温泉”に行くわよ」 「“ものゆる”?なんか変な名前だな・・・」 「一番近いんだし、名前なんて関係ないわよ。そういえば夏柘、あの銭湯の名前なんて 言うの?」 「あの銭湯は・・・“ゆ”かな?」 「は?」 「いや実は俺もあの銭湯の名前知らないんだよ。小さい頃からあそこは“ゆ”って思ってた からさ」 「“ゆ”ってお前・・・それのれんに書いてあるだけじゃねえかよ!!」 「そ、そうなの」 あの銭湯には名前がないのか・・・。いや、名前なしで営業できるはずはない。あの銭湯は 一体どんな名前なのだろうか?柚、卓真、明海の3人の考えていることは一致していた。夏柘 だけがもうその話題から考えを逸らし、“ものゆる”温泉のことを考えていた。夏柘も実は天然 かもしれない。こうして電車の中の会話は幕を閉じたのだった。 「ここね!!」 「おう」 「入るか?」 「うん!!」 駅から数分歩いたところに“ものゆる”温泉はあった。見た目は普通の銭湯となんら変わりは ない。4人は息を呑んでのれんをくぐった。柚は女湯に、卓真、明海、夏柘の3人は男湯に。 かくして4人の“ものゆる”温泉視察が始まろうとしていたのであった。 |