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黄色のワンピースと勘違いの始まり
翌日、柚は早朝5時に起きていた。そしてクローゼットかろ夏服をあるだけ出してみていた。
そして出してきた服をベッドの上に並べてにらめっこしながら独りごとをぶつぶつと言っていた。
「「別に掃除だからそんなおしゃれする必要ないけど、さすがにあれはまずいわよね。やっぱス
カートは掃除には向いてないわよね。かと言ってTシャツじゃなんかしっくりこないし、短パンの ほうがいいかな?今日は髪型も変えてみようかな」
まるで片思いが実って初めてのデートに行くかのような心境である。しかし、昨日はあんなにみ
んなからブーイングをくらうような服だったのに。やはり彼のことが気になっているのか??
さてはてここにもう一人夜も眠れないでいた者がいた。
「あいつやっぱ女だったんだなぁ。よく見たら顔もなんか可愛かったし・・・」
天井に向かって卓真が一人言っていた。どうやら恋の予感???
「あーもう決まらない!!そうだ!!これにしよう!!」
柚がようやく服を決めたのは選び出してから3時間経った8時だった。そして丁度その頃明海
が起きてきた。柚は決めた服に着替えてリビングに出ていった。
「おはよう」
「柚!?」
「わぁー柚どうしたんだ?」
母親と明海がびっくりするのも無理はない。柚が着ている服は柚が持っている服の中で絶対に
着ないであろうと思われる服だったのだ。
「かわいいでしょ?」
「その服お母さんが買ってきたとき文句つけたやつじゃなかった?」
「まあね。でも着れるときに着ておかないとね!!」
「昨日とはすごい変わりようだな・・・」
明海と母親はあきれて物が言えない。柚一人が満足そうに朝ごはんを食べていた。そして食
べ終わると急いで部屋に戻る。明海は用意をして柚の部屋に入っていった。
「おい柚そろそろ行こうぜ!!」
「んー待って!髪形がなかなか決まらないのよ」
柚は鏡に向かって髪型をセットしていた。ちなみに言っていこう。柚は学校に行くときぎりぎりま
で寝ていてひどいときは髪がぼさぼさで行くことが度々である。それが今は鏡を見て髪型をセ ットしている・・・明海には理解がまったくできなかった。一日で一体柚に何があったのか・・・そ れはたとえプレーボーイでも4歳児には分からない。
「ごめん。じゃぁ行こうか」
数分後、柚は短いながらも髪の毛をくくっていつもの面影は全くなかった。
よく化粧で人は変わるなんていうけど、化粧をしなくてもそれくらい変わったといっても過言では
なかった。
「ん?どうしたの?明海」
「いや柚かわいいな」
「なーに言ってんのよ。あっ今日は海水パンツじゃないのね」
「おう。今日はTシャツだ!!」
「じゃ、行こっか」
柚と明海が銭湯に着くと、中ではもう卓真と夏柘が待っていた。そして卓真は柚と明海の元に
駆け寄る。卓真と明海はボーっと突っ立っていた。
「おはよう」
「おう」
「今日も頑張ろうね」
「おう、でも柚なんか今日・・・かわ・・・」
卓真がそう言いかけたとき、柚はぱっと夏柘の元に走って行く。夏柘はもう着替え場のロッカー
を拭いていた。
「おはよう」
「お!おはよう」
「もう掃除してたんだ」
「うん。早く始めたほうがいいと思ったからさ」
「そっか」
「あれ?今日服・・・」
「あっ、うん。ちょっと変えてみた」
「なーんだ今日はアッコちゃんTシャツかと思ったのに」
「なによ、それ!!もういいわよ。着替えてくる」
夏柘の言葉に腹を立てた柚はカバンをもって隣の着替え場に行こうとした。普通なら女湯だか
らこっちで着替えるのが当然だが、とりあえず女湯から綺麗にしていくことになったので男湯の 着替え場で着替えることになる。
「でもさ、そのワンピース似合ってるよ」
怒りながら着替え場に向かう柚にそっと夏柘が言った。柚はパッと振り返った。すると夏柘が
笑っていた。
「バーカ!!」
そう言って柚は着替え場に向かう。明海と卓真の前を通ったときその顔は赤くなって笑顔だっ
た。しかし、その笑顔を見て、勘違いを抱いた人物がいた。
「(あいつ、今めっちゃ顔赤かったよな。しかも俺を見て・・・まさかあいつ・・・俺のこと?)」
違いますよー!!と誰もが突っ込みたくなる瞬間である。まぁ実際に柚が顔を赤らめて卓真の
顔を見ていたことは紛れもない事実だが・・・間違っている。
「おい!!役立たず!仕事始めるぞ!!」
「えっ!?」
ボーっと卓真が勘違いにふけっているうちに柚は着替えを済ませてもう夏柘と一緒に掃除を
始めている。こうして卓真のとんでもない勘違いが始まった。
「なぁー明海、あいつもしかして・・・」
血迷ったのか、プレーボーイだと見込んだのか卓真は柚と夏柘に着替え場を任せ、明海と
ペアを組んで昨日に続いて浴槽を掃除していた。そしてこの4歳児に相談していたのだ。
「なんだ?」
「あいつさ、もしかして俺のこと好きなのかな?」
「あいつって柚か?」
「他に誰がいるんだよ!!今日だってあんな可愛い黄色のワンピース着てきたり、
髪型だって。それにさっき俺見て顔赤くしてたしさ」
「んーまぁ今日の柚は確かにいつもと違うなぁ」
「だろ?恋すると女は変わるっていうしさ」
「でも・・・お前かっこよくないからなぁ」
「は?」
「いや。それよりお前は柚が好きなのか?」
「え?!俺?」
4歳児と中2の会話とはとうてい思えない会話である。一方着替え場の掃除をしていた柚と
夏柘はどうなったか?柚はホウキで床を掃いて、夏柘はさっきと同様ロッカーを拭いていた。
「着替え場はそんなに汚れてないわね」
「うん」
「ねぇなんて呼んだらいい?」
「夏柘でいいよ。俺も柚って呼ぶから」
「うん。ねぇ夏柘は・・・どんな・・・銭湯にしたい?」
「んー人にいっぱい来てほしいかな。
今さ家風呂でもすごい凝ったのとかあるから銭湯なんてもう流行らなくなってきてるし」
「そっかー。確かにそうだよね」
「うん。柚は何で今日あんな格好してきたの?」
「えっ?だってあんなにバカにされたから!今日は見返してやるって思ったの!!」
「俺を?」」
「うん!!」
「なんだ。それだけ?」
「そうよ!!」
顔を見られないように柚は夏柘に背を向けた。確かに目的はそうだったけれど、かわいいとい
われて柚は嬉しかった。だから顔を赤くしたのだ。恋の始まりではなかったのか???
それにちょー勘違いの卓真は??さてはてこれからどうなる?
それはまだ分からないのだった。
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