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ニコちゃんフルーツ牛乳が運んできた彼
卓真は少しだけ柚を女の子だと思い始めていた。
横では一生懸命明海が浴槽全体に秘密兵器殺虫剤をふりかけまくっていた。
「よし!もう死んだからあとは捨てるだけだ」
「ほんとに?」
「おうオレが捨ててきてやるから待ってろ」
4歳児が話しているとはとうてい思えない。恐るべし相河明海。
そして明海は処分したやつを全てちりとりですくって流した。
「ありがとう明海―!!」
「おうオレにはこんなの朝飯前だぜ!!ってかさっきからこいつボーっと見てるだけでさぁ
何にもしないんだぜ!役立たずだよな!!」
「えっ?俺?」
「お前しかいないじゃん!!ったくもっと頼りがいのある男になれよな!!」
中学生が4歳児に説教されている・・・。さてさて柚の嫌いなものも処分され、一向はまた浴槽
掃除にとりかかった。
「(あいつ・・・よく見たら顔とかも整ってるし、今は格好ださださだけど何気にかわいいよな)」
「おい!役立たず!!ちゃんと掃除くらいしろ!!」
掃除開始したのはいいが、卓真はさっきの柚を見て彼女を女として見ていて手についていない
状態。明海はさっさと仕事を終わらせてニコちゃんフルーツ牛乳を飲みたいのでそんな卓真に いらいらしている。2時間ぶっ続けで掃除をして、休憩することになった。3人は浴室から出て 着替え場に戻り、座りこんで一息ついた。
「はぁー疲れた。だいぶ綺麗になったんじゃない?」
「おう!オレ早く飲みたい!!早くくれ!!役立たず!!」
「おい!誰が役立たずだって?もう少し待ってたらつめたーく冷やしたやつ持ってきてくれるか
ら。それまで待ってろ!!」
「つめたーいのか?だったらオレ待ってる!!」
「明海!海パン着替えておいで。服持ってきたでしょ?」
「おう!じゃあオレ男湯のとこで着替えてくる」
そして明海はかばんを持って男湯に。女湯の着替え場には柚を女として見るようになった卓真
が柚と二人っきりになっていた。
「疲れたねー」
「そ、そうだな」
「なんかゴメンね。さっき変なとこ見せちゃって」
「いや、別に」
「あたしどうしてもあれだけは苦手なのよね。いつも明海に退治してもらってるの」
「そうなんだ」
「どしたの?何かいつもの卓真じゃなくない?」
「そうか?」
「そうよ!いつもなら大笑いしていうじゃない。『お前女みたいなこと言うな』って」
「そ、そんなことねえよ。俺・・・」
「フルーツ牛乳もって来たよ」
二人が何だかいいムードだったのも束の間、
着替え場に身長165くらいの男の子が牛乳瓶を3本持って立っていた。
「おっ夏柘!!悪いな。こっちこいよ」
「そんなのこっちのが無理なお願いしてるんだから」
そう言って彼は二人の元に歩いてきた。そして卓真と柚の前に立った。
「あっ紹介しとかねえとな!柚、こいつはここの銭湯の息子で下野夏柘(しもの かつ)っていう
んだ。でお前の弟がほしいと願いまくってたフルーツ牛乳冷やして持ってきてもらったんだ。
明日からはこいつも一緒に手伝ってくれることになってるからさ」
「なに?!フルーツ牛乳きたのか!?」
着替えを済ませた明海が男湯から走って戻ってきた。柚は立ち上がって明海の肩に手をやり
自己紹介をした。
「あっはじめまして私は相河柚って言いますこっちは弟の明海です。よろしくお願いします」
「・・・すっごい格好」
「えっ?!」
柚は自分の姿にぱっと目をやった。すると目を覆いたくなるような自分の格好に初めて後悔し
た。サリーのTシャツにモンペ。最悪だと思った。
「なぁー早くくれよ!」
「忘れてた。じゃあこれ、はい」
「やったー!!ニコちゃんフルーツ牛乳だ!!」
知り合いならまだしも赤の他人にこんな姿を指摘されてはさすがに柚もショックを隠しきれず、
体操座りで座りこんで俯き落ち込んでしまった。そしてその柚を横目に明海は念願のフルーツ
牛乳を手に入れて大喜びで卓真を連れて手を洗いに行った。
「はい」
「いやあたしは・・・」
「飲まないの?」
「うん牛乳嫌いだから」
「そんなこと言うなって!牛だって好きで乳搾られてるわけじゃないんだし、もっと牛のことも考
えてやらなきゃ!!それに仕事したあとだから絶対においしいと思うし。あっここにおしぼりが あったんだ。はい。手拭いて飲んでみてよ」
残された柚と夏柘。夏柘は柚の横に座りこみ、柚が落ち込んでいるのをみて言い過ぎたと反
省したのか持ってきたフルーツ牛乳を差し出した。最初は牛乳嫌いだと断った柚だったが夏柘 の言葉で飲んでみようと渡されたおしぼりで手を拭き始めた。
「さぁオレ飲むぞ!!」
手を洗いに行って戻ってきた明海は飲むことに意気込んでいた。そしてキャップを外した。
「やべーこれうますぎだぁ!!もう家のマミーとか飲めないぜ!!」
「あっうまいな!やっぱおばさんこれに力注いでるのわかる」
卓真と明海はおいしそうに飲んでいる。迷ったが柚もなんとかキャップを外した。そして・・・
「ごくん。お、おいしい」
「だろ?やっぱ働いたあとに飲むから余計においしいんだ。一つ好き嫌い減ったね」
嫌いだった牛乳(フルーツ牛乳)を一口飲んで夏柘を見ると嬉しそうに笑っていた。柚はその姿
を見て、飲み続けた。そしてずっと夏柘を見ていた。柚に映った夏柘の姿は今までに見たこと のない男の子を思わせる感じで華奢だがどこかたくましく思えた。柚は背がそんなに高いほう ではないので165くらいの男の子を大きく感じていた。そして柚は決めた。
明日からはもう絶対にこんな服を着てこないと!!
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