サリーと”ゴ”さんと恋の予感?



「おい柚!起きろ!!オレもう用意したぞ!!」
「ん?」
「今日からあの風呂屋キレーにするんだろ!!」
「ん?そういえば・・・でももうちょっと寝ててもいいじゃない」
「だめだ!!オレは早くニコちゃんフルーツ牛乳が飲みたいんだ!!」


朝になり、明海は昨日からフルーツ牛乳で頭がいっぱいで朝5時起きだった。
一方柚はというと昨日のことなどすっかり忘れて爆睡状態でたった今、明海に起こされたところ
だった。


「あんたなんて格好してんのよ!!」
「へへーんオレ水中眼鏡ももう入れたもんねー」
「だから昨日も言ったでしょ!銭湯はプールじゃないって!!」
「あとオレの秘密兵器も入れた」


仕方なく起きた柚が目にした明海の格好。海水パンツに帽子までかぶって誰から見てもプール
に行くのねと思う格好で決して銭湯に行く格好ではない。しかし、低血圧の柚にとって今明海が
どんな格好していようが寝ているところを起こされてどうでもよくなっていた。


「柚!早く朝ご飯食べろ!!オレ待ちくたびれた」
「うるさいわねーあんた少し黙っててよ」
「早くしろ!早くしろ!!」
「だからーうるさいって言ってるでしょうが!!」
「あんたたち朝からけんかするんじゃないの!!柚今日から銭湯キレーにするんでしょうが!
早く用意しなさい」


無理やり起こされ、朝から怒鳴られ、柚のテンションは最悪である。そんな柚を横目に明海は
かなりの上機嫌!!よっぽどニコちゃんフルーツ牛乳が飲みたいのだろうか・・・


「オレ自慢してやるんだ!ニコちゃんフルーツ牛乳飲んだって」


などと母親にかなり踊りをふまえて表現している。その踊りは・・・笑えない。


「何あんたおしり振ってくだらないことしてるのよ」


渋々朝ごはんを食べて、着替えを済ませ、用意を済ませて柚が部屋から出てきた。


「げっ!!柚そんな格好で行くのか?オレ隣歩きたくない」
「掃除なんだからどんな格好だっていいでしょ!汚れるんだから」
「でも柚それはお母さんも反対だわ」
「いいじゃないあたしが着るんだから」
「オレこんな姉いるのガールフレンドには絶対見られたくない・・・」
「いいから行くわよ!!」


行く気マンマンだったはずの明海が行くのを嫌がりはじめたが無理やりまた小脇に抱えて柚は
家を後にした。でもこの決断が柚を後悔に導くことになる。


「見てあの子」
「あれはすごいわね」
「おい柚―みんな柚見て何かひそひそ言ってるぞ」
「いいのよ言いたいやつには言わせておけば」
「今から帰って着替えようよー」
「無理!!」


もはや明海の言葉は柚にとっては耳障り以外の何者でもなかった。
明海ももうかばんから水中眼鏡をこそっと出してせめて自分の顔だけは見えないように
隠した。


「よう!げっ!!柚お前何だよその格好」
「だろ?オレも注意したんだけど聞かなくて」
「何がおかしいのよ?こんなオンボロ銭湯掃除するんだからこの格好でいいのよ!!」
「だからってお前・・・魔法使いサリーのTシャツはないだろ・・・しかも掃除する前に持ってきて
着替えるとかあるし。ズボンだってなんか昔の人がはいてそうなモンペかよ。
お前ほんと女じゃねえわ」
「もっと言ってくれよ。最初なんか頭にタオル巻いてたんだぜ。
さすがにそれはやめたみたいだけど」


銭湯のたどりついて会っていきなり卓真は柚の服装を指摘した。まあこれならさすがに誰でも
指摘するだろうが。いつもならここで卓真と明海に鉄拳が喰らわされるところだが柚も少し
間違ったと思ったのだろう。何も反論はしなかった。


「もういいじゃん。それよか早く掃除するわよ」


話を変え、銭湯の中に入っていく柚。その後ろでぼそりと卓真が明海に言った。


「お前よく耐えたなあ」


銭湯の中に入っていった3人。どこから手をつければいいのか全く分からない状態である。
かろうじてドリンクが入っている冷蔵庫は新品らしいのでとりあえず浴室から手をつけることに
なった。まずは女湯から掃除開始。


「じゃぁあたしは床を磨くから卓真は壁を磨いて明海は洗面器を綺麗にして」
「OK」
「らじゃー」


てきぱきと分担が決められて、掃除道具を持ってきてそれぞれ割り当てられた掃除を始めた。
数分後・・・・


「きゃー!!」
「どうした?」
「明海助けて!!」
「よし!!オレの秘密兵器の登場だ!!」


明海は掃除道具をポンッと置いて走って着替え場に戻って
自分のかばんの中からあるものを取り出した。


「オレが相手だー!!」


そしてまた走って浴室に戻りそのあるものをふりかける。
そこにいた柚の叫んだ原因は息絶えた。


「よし!!柚もう安心だ!オレが“ゴ”さん退治してやったぞ」
「ほんとに?」


泣きべそを掻きながら柚はその場にうずくまっていた。
卓真はその柚を黙って呆然と見ていただけだった。そして・・・


「おい何があったんだ?」
「“ゴ”さんがいたの」
「“ゴ”さん?あー・・・!!」
「言わないで!!今日からコイツは“ゴ”さんって呼んで!!」


何がなんだかさっぱり分からない卓真はその息絶えた原因を見て明海に尋ねた。


「なんで“ゴ”さんなんだ?」
「柚はコイツがだいっきらいなんだ。名前を聞くのもぞっとするらしくて。
それからオレらの家ではこの黒いテカテカした虫は“ゴ”さんって言うんだ。柚もう退治して
やったぞ」


明海は卓真に事情を話したあとぽんぽんと柚の肩をたたいた。


「また出たらオレがこの秘密兵器殺虫剤で退治してやるからさ」
「っく、っく、んと?ほんと?」
「あーなんなら先にオレがここにもう“ゴ”さんがいないか確かめてやるから!!」


二人の姉弟愛は素晴らしいと卓真は横で感心しているのかと思えばボーっと立ちすくんで全く
違うことを考えていた。


「(あいつ、あんなかわいいところもあるんだ・・・)」