32
手作りうちわキットでオリジナルうちわを作ろう
柚たちは銭湯で営業法などを教えてもらうことになっている。しかし、なぜか5人は中野の家に
いた。そして目の前には大量のうちわキットが置いてある。数にしておよそ500程度。
これはつい1時間前に遡ったことだった。
「あ、やっと来たかい?せっかく来てもらったんだけど、あんたたちにはこっちをやってもらおう
と思って」
ようやく全員が銭湯に着くと森がそう言い、大量の紙袋を渡してきた。
「なんですか?これ」
「手作りうちわキットだって」
「袋に書いてますもんね・・・」
「あんたたちに銭湯のオリジナルうちわを作ってほしいって。相河さんが持ってきたよ」
「どういうことですか?」
「ま、詳しいことは中に書いてると思うから読んでみてよ。何せ時間もないみたいだから
こっちに集中したほうがいいしね」
森にそういわれて紙袋いっぱいのうちわキットを持って中野宅に戻ってきていたのだった。
そして今に至る・・・。
「銭湯のオリジナルうちわって言ってもなぁ」
「メモもこれだけだったしね」
紙袋の中に入ってた1枚のメモには“せっかくなので銭湯のオリジナルうちわを作って配ろう。
銭湯の名前に好きな絵を描いて明日帰ってくるまでに何とか仕上げてください”という一言しか
書かれていない。とはいえ、大量のうちわ、これをどうすればいいのか4人は考えていた。
そこに買い物に行っていた中野が戻ってきた。
「な、なんだい?これ?」
「あ、お帰りなさい。ごめんなさい勝手に上がってて」
「いや、あんたたちがいるから開けて行ったんだよ。
それにここはそんなに物騒じゃないしね!!それより、これは・・・?」
「それが・・・」
柚は中野に状況を説明した。
「オリジナルうちわかい。いいじゃないかい?何を困ってるんだい?」
「それが私たち銭湯の名前は知らないんです」
「名前知らないのかい?・・・役には立たないかもしれないが、柚ちゃん確かあんた五香から
来たって言ってたよね?」
「はい」
「もしかしてその銭湯って五香北通りの銭湯かい?」
「はい。そうですけど」
中野はそう言うと立ち上がりアルバムを持ってきた。アルバムを開くと1枚銭湯の前で撮られた
写真があった。2人の女の人が写っていてその上の木のところにはうっすらと名前が書かれて いる。その銭湯は紛れもなくあの銭湯だった。夏柘はその写真を見て、昔の記憶を少しだけ
頭の中に思い描いた。
「少し見にくいがこの銭湯の名前は確か・・・」
「かっちゃんここはね太陽のようにいつも笑顔で輝いていられるように“朝陽温泉”って
いうんだよ」
祖母の顔が思い浮かんでそう言っているのを確かに夏柘は思い出した。
「そうだ!!思い出した!太陽のようにいつもみんなが笑顔で輝いていられるように
“朝陽温泉”だってばあちゃんが言ってた!!」
「そう!“朝陽温泉だ”!!」
「夏柘?!それほんと?」
「うん。昔に言われたことだけど思い出した」
夏柘を見て中野が口を開いた。
「・・・もしかしてあんた志麻さんのお孫さんかい?」
「え?は、はい」
「そうかい!!私は昔、志麻さんと友達だったんだよ」
「中野さんと夏柘のおばあちゃんが友達?!」
「志麻さんとは長年の付き合いだったんだが、私が引っ越してからあまり連絡もしていなくて
ね。まさかこんなとこでお孫さんと出会うなんて、世間も広いようで狭いんだねー」
中野は懐かしそうに言った。時間がタイムスリップしているかのように。そして柚たちも名前が
やっと分かり、意気込み始めた。
「じゃぁはじめようか!!」
「いやこれラチあかないと思うよ。だってみんなバラバラになったら意味ないし」
「でも・・・始めないと明日までに仕上がらないよ」
「また分けるか。描くのと貼り付けるのに」
「どうやって?」
「絵がうまいかみんなで描いてみればいいさ」
圭がそう言い、第一回うちわペイント争奪お絵かき大会のゴングが切って落とされた。
お題は朝陽にちなんで太陽。画材は紙袋の中にクレヨンや色ペン、色鉛筆、大量の色画用紙
など大量に入っていたので好きなものを使って描くことになった。
「オレ出来たぞー」
「俺も出来た」
「俺も!」
「描けた」
柚を除いて4人が描き終えた。そして柚も渋々ペンを置いた。
「じゃ作品発表な!!まずはじゃぁ・・・卓真から!!」
「はーい。ほい」
「おぉー!!」
卓真は美術はいつもよかった。クレヨンで描いた太陽は完璧だった。
「じゃ!俺決まりでいいっすよね?」
「んーまぁお前うまいしな!!」
「オレもやりたいー!!」
卓真が絵を描く係に決まると明海が自分の絵を見せた。
「おーお前もなかなかうまいな!!」
「うん。明海の太陽、卓真のにも似てるからいいかも」
「じゃ!明海も決まりだな!!」
「やったー!!」
明海と卓真が決まり、3人ってことになったので後一人。
そして残りの3人は一斉に絵を見せた。
「お!夏柘もなかなかだな」
「そんなー圭さんもうまいですよ」
「・・・・」
「・・・お!夏柘もなかなかだな」
「・・・そんなー圭さんもうまいですよ・・・」
「私はー?」
「(なんだ?これ?タコか?)」
「(そういや柚、美術1だったっけ)」
「(これはもらっても困るだろうな)」
「(・・・・あえてノーコメントだな)」
柚は超がつくくらい絵が下手だった。太陽を描いたはずなのになぜかタコみたいに見える。
4人はそれぞれ好き勝手なことばかり思っていた。
「ねぇー私は?私も絵描きたい!!」
「えー(ありえないだろ)
(こんなの配ったら恥だぜ)
(こいつ自分の画力わかって言ってんのか)
(これもらったら風もぬるそう) 」
「何で?みんな何も言ってくれないの?私絵には自信あるのにー!!」
「(自信あるー!!!!!?)」
柚の一言で4人が一致団結してそう思った。そして何としても柚を阻止しないといけないと
立ち上がった。
「い、いやぁー、あ、あのさ柚は貼り付けるほうが、向いてるんじゃないか?」
「何で?私も描きたい」
「えっと、いや、お前は貼り付けるほうが向いてるよ!な!卓真!!」
「え?そ、そうだよー!お前は貼り付けるほうがいいよ。な!夏柘!」
「あ、う、うん。柚しかいないよ!綺麗に貼り付けられるのはさ!そう思うよな!明海!」
「お、おう!!おもう、おもう」
4人がしどろもどろに言う。しかし、柚は一向に引こうとはしなかった。
「みんなー休憩にしないかい?お昼用意できたよ!!ん?なんだい?タコ描いてたのかい?」
シーン
「・・・私、貼り付け係やりたかったんだ」
こうして柚たちの朝陽銭湯オリジナルうちわ作りは開始されたのだった。
|