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夏柘の昼ドラ〜愛の拠り所〜



「ねぇー夏柘、さっき圭にいが夏柘は今まで昼ドラのまねしてたって言ってたけど、
それってどんな話だった?」
「え?」


柚と夏柘は手をつないで銭湯に向かっていた。


「聞きたいの?」
「うん!!かなり聞きたい」
「え?でもそんな・・・」
「私が好きじゃないの?」


すっかり柚に主導権を握られてしまった夏柘は渋々話し始めた。



〜愛の拠り所〜


北島ほのかは平凡な主婦だった。そうあの日までは・・・。


「行ってらっしゃいあなた」
「あ、行ってくる」
「今日の帰りは早いの?」
「わからない。仕事が忙しいからな」


そう言って主人北島ひろは家を後にした。子供がいるわけでもない。ほのかは常に家に
閉じこもったままだった。最近夫婦仲もそんなによくない。ひろは会社人間なので仕事を
第一に考えている。ほのかもそれは知っていた。しかし、今となるとそれが辛かった。

今日もいつもと同じ一日。外に出ると行っても夕飯の買い物くらいだろう。そう思って掃除機を
かけていた。そんなときだった


ピーンポーン


インターホンが鳴った。ほのかは掃除機を止め、玄関に向かう。


「あ、こんにちは。俺今日隣に引っ越してきました広瀬康太っていいます」


それがほのかと康太の初めての出会いだった。康太は大学生で一人暮らし。ほのかは最初
お互い一人だということで康太を食事などに招いていた。そして段々と康太に惹かれていった
のだった。


「おいしい。ほのかさんの料理はいつもおいしいよ」
「・・・康太くん・・・好き、私、康太くんが好きなの」


いつものように夕食を一緒に食べていたとき、ほのかはとうとう自分の気持ちを康太に言って
しまった。


「ほのかさん、俺もほのかさんが好きだ」


とうとう不倫という大波に漕ぎ出したほのかと康太。ひろは仕事が忙しくて家に帰ってくることが
少なくなってしまった。それは康太とほのかを距離を縮める最大の状況となった。しかし、幸せ
はそう続かなかった・・・。


「な、何してるんだ!!」


なんと康太とほのかが家で抱き合っているときにひろが帰ってきたのだった。ひろは康太を思
いっきり殴り、ほのかはただそこで泣きじゃくった。康太はケガをしたまま自宅に戻る。そして
ひろはほのかにも殴りかかった。そして、それに耐え切れずほのかは


「あなた、離婚してください」


そう言う。もちろんひろはそれを承知しなかった。そしてひろは仕事を辞めて、毎日家にいる
ことに決めた。ほのかは家から出ることは出来なくなり、ひろには会わせてもらえなかった。

ひろは更に康太に手切れ金を渡し、引越しするように命じた。康太は悩んだ。ほのかとの日々
を思い出しながら。しかし、所詮は不倫。それに康太は自分の気持ちが分からなくなってきて
いた。ほのかが好きなことは事実。しかし、本当にほのかが好きなのか。そして康太は最後
だとひろに断り、ほのかに会った。


「ほのかさん」


古びてはいるがこじゃれた喫茶店で2人は待ち合わせした。少しほのかはやつれて見えた。


「久しぶりね康太くん」
「あの・・・」
「私と一緒に逃げましょう!でないと私たちもう引き離されてしまうわ」


ほのかはかけおちを考えていた。康太は迷ったが一緒に逃げようとした。
しかし、途中でひろと約束したことが頭から離れず、


「ほのかさん、もう俺のこと好きにならないで」


と言い、別れた。これでよかった。それに自分の気持ちを確認するためには丁度いい。
そしてひろにほのかとはきっぱり別れたが隣に住ませてほしいと頼む。

ひろは康太を信じ、それを承諾した。康太はほのかの前で他の女を家に入れたり彼女を
作ったりした。しかし、康太はいつも満たされなかった。ほのかが本当に好きだと自覚する。

しかし、時はすでに遅し、ほのかはひろの子を妊娠していた。
康太は自分のしたことを悔やむことはなかった。
結果は悲しい結末になってしまったがちゃんとほのかを好きだと確信したから・・・

そして康太はほのかの前から姿を消し、ほのかはひろと幸せに暮らしたのだった



〜終わり〜



「・・・何その話」
「すごいだろ?男の一途な思いがひしひしと伝わってさぁ。俺は感動した。
自分も絶対にこんな男になりたいって思ったんだよなー」


夏柘がロマンを語る横で柚は完全に呆れていた。


「でも許されない恋っていいよなー」
「(そういえば1度目の恋は不倫だったなぁ。もしかして夏柘って悲劇のヒロインならぬ悲劇の
ヒーローでも目指してるの?)」
「な!柚も見てみる?俺全部ビデオに撮ってあるからさ!!」
「・・・私あんまドラマ好きじゃないから」
「そっか。でもいいよなーなんちゅうかこう男って」
「そだね。(もしかしたら夏柘って卓真並に変かもしれないなぁ)」


柚はすこーしだけ握った手を離そうかと考えたがそれでも自分を好きなことに気づいてくれた
夏柘が嬉しかった。


「あ!!」
「え?」
「分かった!卓真!」
「え?何がわかったの?」
「・・・卓真はマンガだわ」


柚は思い出した。卓真が大好きなマンガの話を語っていたときのことを・・・。


「やっぱマンガはいいよなー!!俺の好きなマンガでピンチの女を助ける主人公がいてさぁ。
あなたが好きだってそいついつも告白されるんだけど『俺はお前に惚れなかった』 って言って
かっこよく去っていくやつがいるんだよなー!!俺、告白されたら絶対そう言うね」


『俺が柚に惚れなかった』柚は卓真のその言葉をしっかりと頭に記憶していた。しかし、昼ドラ
大好きな小学5年生とマンガ大好き中学2年生、そして恋をあつーく語る高校2年生。
もしかしたら本当に一番大人なのは明海ではないかと思う柚であった。