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やっぱり君がすきなんだ★



柚は三好さんの家でお風呂を借りて、家に帰ってもずっと卓真に言われたことばかり気に
なっていた。もしかしたらただの勢いで夏柘を好きになった気でいるのかもしれない。
頭の中にはそんな考えもよぎった。そんなとき部屋のドアが開き、明海が青いパジャマ姿で
入ってきた。


「柚―入るぞ」
「どうしたの?明海」
「さっき圭から電話があって今日は夏柘のとこに泊まるって」
「そうなんだ。教えてくれてありがと」
「柚―・・・柚言葉遣いが変わったな」

「え?」
「なんか優しくなった。じゃまた明日、おやすみ」


笑いながらそう言った明海はそっとドアを閉めた。


「言葉遣い?そういえば変わったのかもしれない」


柚は自分を振り返った。つい前までは言葉遣いがひどくてとても女扱いなんてされなかった
自分。いや恐れられるような、自分主張の言葉遣いだった自分。きっと前の自分なら明海に
ありがとうなんて言わなかっただろう。それが今では言葉がすっと出てくる。


「ちゃんと私、夏柘が好きなんだ」


夏柘の影響力。それが柚はもう十分夏柘を好きな理由だとそう気づいた。勢いや錯覚じゃ
意識しなきゃ自分は変われないけど、意識しないで今までのダメだった部分が変われてる。
自分じゃ気づかないほどに。そう思った。


 「おはよう!!」


翌日柚は何かが吹っ切れたかのように元気いっぱいでリビングに来た。


「柚―おはようじゃないでしょ!あんな時間に三好さんのとこ行って!」
「ごめんね。昨日は本当にすいませんでした」
「?ま、これからは気をつけなさいよ」
「はい!すいませんでした!!」


母親も柚の態度の変貌ぶりに驚いていた。今までなら何かとつっかかってきていた柚が
自分の非を認めて素直に謝った。でも、それが驚く反面、嬉しくも感じられた。


「圭にい!!おはよう!」
「おはよう圭」
「よ!柚、明海。今夏柘仕入れ行ったとこで卓真はまだ来てないんだ」
「そうなんだ。あ、昨日はありがとね」
「もう大丈夫か?」
「うん!!」


銭湯に着くと、女湯の着替え場には圭が一人扇風機をつけて涼んでいた。


「一生懸命になってるときってあんま気づかなかったけどさ、ここって暑いよな」
「え?そういえばそうかも」
「暑いぞ」
「な、ここにクーラーつけたらどうかな?」

「クーラー?でも銭湯にクーラーなんてあるの?」
「いいんじゃね?夏はクーラーないと過ごせないだろ」
「おはよ!!」


3人がそんな話をしていると寝ぼけ眼で卓真がやってきた。柚は走って卓真の元に行く。
そして、卓真の腕を掴んで、男湯の着替え場に連れて行った。


「なに?」


まだ寝起きの卓真は不機嫌そうに柚に言った。


「私!ちゃんと夏柘が好きだから!」
「は?」
「昨日卓真言ったじゃない!『夏柘が好きだって錯覚してる』って」
「あー」
「でも!私錯覚じゃなくてちゃんと好きだから夏柘のこと!!それだけ言いたかったんだ。
じゃ戻ろうか」


柚はそれだけ言うとくるっと振り返って、女湯に戻ろうとする。すると卓真は俯いて、
声にならない声で言った。そのときだった。


どさっ


「卓真!」


卓真が倒れた。柚はすぐに卓真に駆け寄り、卓真の体を起こす。すると卓真の口が開いた。


「待てよ!!」
「どうしたの?卓真すぐ圭にい呼ぶから」
「俺お前が好きだ!!」
「え?た、卓真?」


そして、そう言うと卓真は柚の肩に腕を回し唇を近づける。


「ちょ、ちょっと意味わかんないから。ね!卓真ちょっと落ち着いて、ねっ!圭にいー!!
明海―!!」


柚の叫び声を聞いて圭と明海がやってきた。


「柚、どうしたんだ?」
「助けて!」
「卓真お前何してるんだ!!すぐ柚を離せ!!」


圭が柚の肩に回された卓真の腕を払おうとしたときだった。


「○○えもん!!」


卓真の口から出た言葉。それは『○○えもん』だった。そう言ったあと卓真はその場に倒れた。


「今なんて言った?」

「○○えもん?」


○○えもんとは青い猫型ロボットでつい最近声優が変わったあの○○えもん。圭と柚が目を
見合わせて言う。3人はしばらくその場を動けなかった。そして数分後卓真が目を覚ました。


「あれ?俺何してんの?」
「卓真、覚えてないの?」
「うん。確かお前に呼ばれたとこまでは覚えてんだけど・・・なんか目の前に急に○○えもんが
現われてさ」
「○○えもん?」
「うん。お前○○えもんと入れ替わった?○○えもんがどこかに行きかけたから、
俺待てよ!って言ったんだけど・・・」


どすっ!!


「ぐあは、な、何すんだよ柚。いてー」
「もう私あんたとは口利きたくない」


柚は卓真のお腹に鉄斎を喰らわせて女風呂に一人戻っていった。


「なんなの?あいつ!何が○○えもんと入れ替わった?よ、あんな奴の言ったこと気にして
損したわ」


柚が戻ると夏柘がいた。


「どうしたの?」
「夏柘!仕入れから帰ってきてたの?」
「うん。でもみんないないからどうしたのかと思って」
「あ!夏柘仕入れ終わったのか」


圭だけが戻ってきた。卓真はまだ少しダウンしているので明海が見ていた。柚と圭は夏柘に
経緯を話した。


「卓真が?!」
「そうなの」
「しかしあいつおかしいとは思ってたけどあそこまでおかしかったか。柚の話もほとんど聞いて
なくてあげくには『○○えもん』と入れ替わった?だもんな。寝ぼけるのにほどあるよな」
「でも卓真らしいといえば、卓真らしいかも」


圭は夏柘に話しながら思い出して大笑いしていた。夏柘も笑っている。卓真は寝ぼけていた。
銭湯にも何度か睡魔に襲われる状態でやってきた。柚に呼ばれた時点ではほとんど寝ている
状態で空返事をしていた。そして、柚が言ったときはもう半分夢の中だった。とはいえ、
○○えもんに愛の告白とは・・・淡路卓真恐るべし。


「(何?あいつ私を○○えもんだと間違えて告白したわけー?最低!私が好きなら・・・)
えーっ!!!!!!」
「どうした柚?」
「え、な、何でもないよ。(告白されたの?私・・・?いやあれはドラえもんに対して言ったこと・・・
だったらどうして私こんなに怒ってるの?)

「そういやお前卓真に何か言われたのか?」
「え?な、何も言われてないよ。昨日の話の続きした、それだけだよ」
「ならいいんだけどさ。あいつ・・・」
「あー!!!!圭にい」


圭が何かを言いかけたとき卓真が肩に腕を回したことを言われる、そう思った柚は圭をじっと
にらんだ。圭は察したのかそれ以上何も言わなかった。


「あ、そうだ!柚今日、渡したいものがあるから帰りうち来てくれる?」
「渡したいもの?」
「うん。実は俺も柚がいい曲だって言ってたから『Kiss Me』のCD買ったんだ。自分の分と
柚の分。だから渡したいって思ってさ」

「ほんとに?私・・・」
「昨日のことは俺ちゃんと分かってるからさ」
「夏柘・・・(一瞬でもバカ卓真のこと考えてゴメンね)ありがとう」
「うん」


柚は夏柘の優しさに触れて、少し卓真の告白のことも考えたがやっぱり自分は下野夏柘が
好きなんだなと改めて再認識したのだった。