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復活銭湯には期限があった。そして勘違い卓真がやってしまった
柚は買ったCDをかばんに入れた。
「(私もこの歌好きだなー)」
柚は頭の中で流れていた音楽を思い浮かべながら、家に帰った。明日は絶対に夏柘に渡そう
と決めて。しかし、このCDが一つの波乱を巻き起こすことになるのだった。
翌日、柚は昨日の余韻に浸っていた。初めての遊園地デート。夏柘とつないだ手。いつの間に
か消えていた絶叫マシーンへの恐怖心。そういえば牛乳(フルーツ牛乳だが)を飲めるように
なったのも夏柘の一言だった。柚にとって夏柘は恋愛対象はもちろんだが自分の中の苦手
意識を取り払ってくれる存在でもあった。
「柚―そろそろ行くぞ!!」
圭に呼ばれて、柚は昨日買ったCDをカバンの中に入れた。
「はーい!!」
銭湯に行く道でも昨日の遊園地の話題で盛り上がっていた。というよりも柚が昨日帰ってすぐ
にその話題をする間もなく、寝てしまっていたのだった。
「柚―お前昨日どうだったんだ?」
「どうって?」
「遊園地デートに決まってるだろ」
「あーすごく楽しかったわよ」
「いいなぁオレも行きたかったぞ」
圭がわくわくしながら柚に問いかけた。柚がうれしそうに言うので、明海はまた口をぷーっと
膨らませた。
「今度は一緒に行こうね。明海」
「おう!!行くぞ!!ま、オレも昨日は健康ランド楽しかったけどな!」
「健康ランド?」
柚がそう言ったので圭は苦笑いを浮かべて、昨日の経緯を話した。本当は自分たちも遊園地
に行くつもりだったがチケット違いで健康ランドに行ったことを。
「アハハ。それかなり面白いよ!圭にい!!でも私一つ間違えてたら、健康ランドに行ってたん
だねー」
それを考えると決して口には出さなかったが自分は当たりくじを引いてよかったと思った柚で
あった。
「おはよう」
「よ!夏柘!!」
「おはよう柚、明海、圭さん」
銭湯に着くと夏柘が一番乗りで来ていた。柚はかばんに手を入れてCDを渡そうとしたが、
後から渡したほうがいいかなと思いなおしてそっとかばんから手を抜いた。
「オレ昨日一番あれがよかったぞ」
卓真がやってくると全員は女湯の着替え場に入り、これからこの銭湯をどうやっていくか話し
合うことになった。なぜか一番に意見を出したのは4歳児の明海。昨日の健康ランドでの
よかった点を話し始めた。
「お前、結局フルーツ牛乳かよ」
「そんなこと言いつつ卓真もうまいって飲んでたぞ!!」
やっぱり明海のメインはその話。昨日飲んだフルーツ牛乳はここのニコちゃんフルーツ牛乳に
は適わないがそこそこだったとか。そんな話を聞きながらも柚は昨日のことばかりを考えてい た。心なしか夏柘の表情も嬉しそうに見えた。それを見て柚も嬉しく思った。
「そういやここって何温泉なんだ?」
「“ゆ”らしいぞ」
「は?」
「それか太陽温泉らしいぞ」
圭は思い出したかのように言った。しかし、明海から間髪入れず返ってきた言葉に?にしか
返すことが出来なかった。
「夏柘が言ってたぞ」
「夏柘知らないのか?」
「はい。この銭湯の名前なんて家族で話題に出なかったし名前聞いたはずなんだけど“ゆ”の
イメージが強くて。それに俺今まであんまここ来なかったし。元々この銭湯はばあちゃんがやっ てたんだけど病院に入院して、俺の両親が代わりやってたんですけど手抜いて掃除さぼって
今の状態になったんです」
「そうだったの」
「うん。最初は客来てたらしいんだけど、俺の親の愛想が悪くて誰も寄り付かなくなったんだ。
俺の親嫌々やってたのが表れてたらしくてさ。常連客もいなくなったんだって」
「確かにおばさんよく愚痴ってたもんな」
卓真がそう言ったあと夏柘は忘れていた重要なことを思い出した。
「あっ!!!」
「どうしたの?」
「思い出した!!!」
「何を?」
「えっ?いや実は・・・ばあちゃんが8月31日に退院決まったから親がやばくなってあせりだし
たこと忘れてた!!俺の親ばあちゃんには銭湯は何も変わってないって言ってたから」
「じゃ、31日までにお前のばあちゃんがやってたときみたいにしなきゃいけないってことか?」
「うん・・・それと俺のバカ親、ばあちゃんに若者もいっぱい来てるって言ってたらしい」
夏柘はそういうと顔が真っ青になっていった。
「お前なーなんでそんな大事なこと忘れてたんだよー!!」
「・・・いろいろあったからだよ!それに・・・
(寝起きにあんな軽く言われたこと覚えてるわけないだろ)」
〜回想〜
「あ、そうそうかっちゃん!!おばあちゃん31日に帰ってくるからそれまでに卓真くんと2人で
なんとかしてね。若者もいっぱいよ!!よろしくねー!!」
〜おわり〜
「それに、どうしたの?」
「いやなんでもない。それより思い出したんだからなんとかしないと」
「でも夏柘の親なんでそんな大事なこと卓真に頼んだんだ?」
「ばあちゃんがいないから2人で一ヶ月旅行するってもうだいぶ前から予約してたらしくて・・・」
「でもそんな大事なこと俺に頼むなんて、何で俺なんだ?そんなに俺頼りがいあるのかな?」
「(きっとそれは金につられて卓真ならやると思ったからだろうなぁ)」
圭、柚、夏柘の3人は同じことを考えていた。卓真なら金につられてやると思ったからだろうと。
とはいえ、なんという自由さだろう。それを聞いて一番驚いたのはほかならぬ卓真だった。
あの紙(第3回参照)がポストに入っていたのは夏休みに入る前だった。その紙を持って卓真
は部屋に入った。
「あの銭湯?あーあのオンボロ銭湯のことか」
卓真はその紙を読んで、一人でぶつぶつつぶやいていた。卓真は銭湯のことはなんとなく
夏柘から聞いていた。それにオンボロ銭湯はこの辺りでも有名だった。
「でもお金くれるならやってもいいか」
そして3人の想像通り、簡単な考えで引き受けることにした。そして了承の返事を夏柘の母親
にしたのだった。
「でも今のままじゃ31日はちょっと厳しいよな」
「・・・すいません俺が忘れてたから」
「夏柘のせいじゃないよ!!とにかくこれから本格的にペース上げてやっていこ!」
「柚・・・」
「そうだな!!急ピッチでやっていこう!!幸い掃除はだいぶ出来てるからさ」
「圭さん・・・ほんと圭さんまでいつの間にか巻き込んじゃってすいません」
「そんなこと気にするなよ!!俺が勝手に参加しただけだし!それにこうやって何かに打ち
込むのとかなかなかないだろ。こうなりゃとことんやるとこまでやろうぜ!」
「オレも頑張るぞ!!」
「ありがとう明海」
「じゃあさっそくどうしたらいいか話すか!!」
結局その後、計画を練りあったがまとまらなかった。しかし時間もそろそろ遅くなってきたので
この続きはまた明日に持ち越しになった。そして解散したあと柚はCDを渡そうと銭湯を出て、 戸締りをする夏柘を待っていた。ゆっくり深呼吸をする。圭と明海は先に帰るといい帰った。
柚は少し緊張して俯いていた。視界に夏柘の靴が見えた。
「あの・・・これ」
そうやって俯いたままCDを渡した。
「これ・・・くれるってこと?」
「・・・うん。いい曲だったから買ってきたんだ。明日からまた頑張ろうね」
「マジで?ありがとう。頑張ろうぜ」
「(あれ?なんか変?)」
夏柘の口調がおかしいと思った柚が見上げるとそこにいたのは卓真だった。柚がずっと夏柘
の靴だと思っていた靴は卓真のものだったのだった。柚は卓真にCDを返してもらおうとしたが 卓真はそこで中身を出してしまっていたのだった。すると中から夏柘が出てきた。そして夏柘は 卓真の持っているものを見て言った。
「どうしたのそれ?」
「これ今柚からもらったんだ。いい曲だってわざわざ買ってくれたって」
「え?このCDを?」
「ち、ちが・・・」
「俺この曲かなり好きなんだ!!柚はちゃんとそれ分かってくれてたんだな。前聴いていいな
って思ってたんだよ。ただ誰が歌ってるかわかんなくてCDも買えなくてさ題名見てあの曲だって
すぐにわかったよ。わざわざ調べてくれたんだ。やっぱ俺と柚は絆が深いってことだな」
「・・・・そう。よかったな。柚もその曲知ってたんだ。じゃ俺帰るわ」
そう言うと夏柘は去っていった。柚は呆然と立ちすくんだ。
「ありがとうな柚。俺家帰ってさっそく聴くわ」
卓真もそう言って、柚を残して帰ってしまった。たまたま夏柘が好きだった曲を卓真も好きだっ
た。柚はしばらくその場から動くことが出来なかった。これから銭湯を本格的に復活させなくて はいけないというのにそれどころではなくなってしまった。 |