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柚ちゃんと夏柘くんの秘密の遊園地デート★後編



遊園地は平日さながら夏休みで込んでいた。柚はチケットを夏柘に渡し、入場口の係員に
チケットを見せて2人は入って行った。


「何から乗る?」
「夏柘は何が好き?」

「俺?ジェットコースター!!」
「え!それは勘弁して。私乗れない」
「えー遊園地来た意味ないって!ま、一回試しに乗ってみましょう」


そう言うと夏柘は渋る柚の手を掴んでジェットコースターの乗り場に走った。一方柚たちがここ
について、数分後あの3人も遊園地の入場口までやってきていた。そしてチケットを見せて
中に入るとこまでいった。しかし・・・・


「お客さまこのチケットでは入場はちょっとご遠慮いたたがないと」


と入場口にいた係員にチケットを返された。おかしいと思い圭はそのチケットを見直した。


「は?何だこれ?」


そう。圭が持っていたチケットはすなわち遊園地のフリーパス付き券ではなかった。確かに
母親は手に5枚のチケットを持っていたがそのうちの2枚だけが遊園地のチケットだった。
確認しなかった母親も悪いが圭もそのつもりだと勝手に思っていたので自業自得だった。


「何してるんだ?圭、オレ早く入りたいよ」
「・・・・明海、場所変更だ」



「大丈夫だって俺がいるから」
「こ、恐くなんかないわよ」
「無理しちゃって」


柚と夏柘はジェットコースターに乗り込んでいた。人が多いとは言え、朝一だったのでそんなに
並ばずとも乗ることは出来た。口では強く言った柚も内心は恐怖に怯えていた。しかし、先ほど
夏柘に掴まれたときのドキドキ感に比べたらずっとましだった。


「(さっきは心臓飛び出るかと思ったわ)」


しかし、柚が安心したのも束の間、ジェットコースターは動き出す。まるでそれはいきなり
大雨が降ってくるかの勢いだった。


「きゃー!!」
「大丈夫?」
「だ、だいじょう・・・きゃー」


勢いは止まらず上に上がったかと思えば、下へ急降下。もはや何を言っているかもお互い
聞き取れない状態。柚はやってくる勢いに絶叫するしかなかった。降りたあと、柚はぐったり
していた。


「あー面白かった」
「・・・・」
「柚もしかして恐かった?」

「こ、恐くなんかないわよ!!」
「そ、じゃ次行ってみよう!!」


こうして柚はまた夏柘に手を掴まれて、いろんな絶叫系のマシーンに乗せられた。
一方その頃・・・・


「圭・・・・ここ遊園地じゃない」
「俺もここはちょっと遊園地には見えないですね」
「ま、ちょっと路線変更ってことで」


圭たち3人がやってきたのはどこをどう見ても遊園地には見えない健康ランド。そう圭の持って
いた3枚のチケットは健康ランドの無料招待券だった。それにしても柚はついていた。
一つ間違えれば、健康ランドに行くことになったのだから。
 
 

「そろそろ休憩しようか」


そう夏柘が言ったのは遊園地に来て、絶叫マシーンをひたすら乗り続けること2時間後のこと
だった。


「あ、あそこ行こう」
「そうね(やっと開放された。それに夏柘って以外と・・・好き勝手するんだ)」


夏柘の意外さ、少し子供っぽいところをはじめて見れた柚は少し嬉しかった。今までは大人っ
ぽい夏柘しか知らなかったから。そして2人はファーストフードが売っている店で昼ごはんに
することにした。


「柚何にする?」
「私ハンバーガーにしよかな。夏柘は?」
「俺もそうしようかな。あ!」
「え?どうかしたの?」
「この歌俺好きなんだ」
「歌?」


Kiss me Angel Falling Angel Sweet my Angel Fly away
Shining Angel May be Angel Please kiss Kiss me Say yes


店内に響く音楽。聴こえてきたのはこんな歌。バラード調ではなくアップテンポで歌っているの
は男の人。


「誰が歌ってるの?」
「それが、わからないんだ。一度前聞いて歌のタイトルが『Kiss Me』ってことは知ってるん
だけど」
「そうなんだ」
「CDとかほしいんだけど、誰が歌っているか分からないから買えないしね」


そう言って2人がその歌を聴いていると順番が回ってきた。2人は同じものを注文した。



「いいないいなー柚はいいなー♪」
「明海―頼むからすねるなよ。そんな昔ばなしの替え歌なんて歌わないでさ」
「オレも遊園地行きたかった!!」
「後でフルーツ牛乳飲ませてやるからさ!」
「ほんとか??まーたまには健康ランドもいいもんだな」
「(げんきんな奴・・・)」


圭たち3人は健康ランドの風呂の中にいた。卓真はまんざら嫌そうでもなくむしろ風呂に入る
のを楽しんでいるようにも見えたが明海は口を膨らませて怒っている。しかし、フルーツ牛乳の
力は強く、内心圭は胸をなでおろしていた。


 
柚と夏柘はその後も絶叫系に乗ったり、水の急流すべり。回るブランコなどほとんどの乗り物
を制覇した。柚も何度も乗るうちにいつしか絶叫系の乗り物に対する恐怖感は消えていた。
それよりもいつも夏柘が手を引っ張ってくるごとに心臓の音が早くなっていった。二人は最後に
観覧車に乗った。さすがに隣に座るわけには行かず、向かい合わせに座る。夜景がとても
綺麗で柚は夏柘と来れてよかったと本当に思った。


「もうほとんど制覇したし、そろそろ帰ろうか」


観覧車を降りると時刻は7時過ぎ。辺りも真っ暗になりかけていた。乗り物もほぼ制覇したので
2人は帰ることにした。


「今日はありがとう」
「そんな、こっちこそ楽しかったよ」
「じゃ、また明日ね」


いつもの銭湯の前で2人は別れた。しかし、柚はそのまま家には帰らずある場所に寄った。


「『Kiss Me』だったわよね。確か」


柚が向かった先はとあるCD屋。そこで視聴検索ができることを知っていた柚はヘッドフォンを
耳につけて歌のタイトルのところに『Kiss Me』と入れた。『5曲検索されました』。画面にはそう
出ていた。誰が歌っているのか分からないので1曲ずつ聴いていくことにした。


「(んーこんな曲じゃなかったし、これも違うわよね)」


数曲聴いたがどれも違う。しかし、次の曲、あの遊園地でかかっていた曲が柚の耳元に
流れた。


Kiss me Angel Falling Angel Sweet my Angel Fly away
Shining Angel May be Angel Please kiss Kiss me Say yes


「(あっこれ!!)」


柚はすぐに歌っている人が誰か確認してそのCDを探した。そしてそれを見つけ、レジに持って
いった。


「すいません、これプレゼント用にしてもらえますか?」