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柚ちゃんと夏柘くんの秘密の遊園地デート★前編



日も暮れて、今日のことがなんだか少し昔のように感じられるくらいになり、みんなは銭湯を
後にした。


「ねぇーこれ工事の人にもらったんだけど行かない?」


家に帰ると柚、圭、明海を待ち構えていたかのように母親がチケットを手でびらびらさせて
いた。


「何?それ?」
「遊園地のチケットなのよ。期限が明日までらしくてその人ももらったらしいんだけど行く予定
ないみたいだからくれたの」
「遊園地―?オレ行く!オレ行く!!」


遊園地と聞いただけで明海は大喜びだった。


「でも、明日も集まりあるし・・・無理ね」
「えー遊園地オレ行きたい!!」
「いいじゃん行こうぜ!な!」
「でも・・・」


渋る柚にそっと圭が耳打ちした。


「バカだなお前、明日夏柘と2人で行ってこいよ!明海と卓真は俺がなんとかするからさ」
「け、圭にい」
「よし!決まり!!明日楽しみだなー!!」
「やったー!!遊園地だ!!」


柚の返答もないままに圭は勝手に決めてしまった。明海はソファを飛び跳ねて喜んでいた。


「楽しみ♪楽しみ♪」
「(夏柘と2人??それってデートじゃない)」


柚がちらっと圭のほうを見ると圭は白い歯を見せてピースサインをしていた。


翌日、天気は快晴。まさに遊園地日和と言っても過言ではなかった。柚はまた夏柘を見返した
ときのようにおしゃれをしていた。水玉のノースリーブにすそがひらひらしている丈の短いジー
パン。それに髪型は二つにくくり、つめにはピンクのマニキュアを初めて塗った。


「おー柚今日めっちゃ可愛いぜ!!」
「そ、そう?」
「おう!!なんかお姫さんみたいだ」
「そんなんじゃないわよ。バカ」


柚は完全に照れていた。時刻は7時。まだ2人は銭湯には来ていない。圭は卓真を銭湯に
行かせないよう時間を稼ぐために彼の家に明海を連れて行く。その間に銭湯に来た夏柘と
柚が遊園地を行くという作戦になっていた。


「じゃ、私そろそろ行くわ」
「え、オレまだ何も用意してないぞ」
「明海は俺と行くんだ!柚は先行くってさ」
「そっか。じゃぁ柚また後でな」


ここが4歳児というのだろうか。疑うことを知らない明海。パンをかじりながら玄関まで柚を
見送った。


「健闘を祈る」


圭はまた柚にそうやって耳打ちをした。柚は真っ赤になっていた。


「バカ」
「じゃあまた後でな!!」
「うん」


柚は銭湯の前で夏柘が来ることを待っていた。数分後夏柘が銭湯にやってきた。


「あれ柚早いね」
「あ、あのね、今日遊園地に行かない?」
「遊園地?」
「お母さんが券もらって、今日までなの。圭にいが・・・二人で行ってこいって」


少し俯きかげんででも声は張って柚は言った。圭が言ってくれたものの夏柘に断られたら
どうしよう。そんな思いでいっぱいだった。


「遊園地かーいいな!行こうか?」
「ほんとに?!」
「あ、でも用意しないと。待っててもらえる?」
「うん」
「ここじゃ暑いから家行こうか」


夏柘の返事に喜びを隠せない柚。夏柘は用意するから待っててほしいと柚を家まで連れて
行った。夏柘の家は銭湯からものの5分もかからないところにあった。


「入って」
「おじゃまします」
「じゃ着替えてくるからここで待ってて」
「わかった」


柚をリビングに通して、夏柘は自分の部屋に入った。一方・・・・


「え?今日柚と夏柘来ないの?」
「今日は遊園地に行くんだ!」
「は?」


圭と明海は卓真の家に行った。どうやらこの様子だとこの3人も遊園地に行くつもりらしい。
果たして圭は何か考えているのだろうか??


「ごめんおまたせ」


数分後リビングに入ってきた夏柘は誰がどう見ても小学生ではなかった。黒いTシャツにジー
パン。それにキャップをかぶっている。柚はこう見えても実は154cmなので165cmくらいの
夏柘と歩いても特に違和感はないくらいだった。


「じゃあ行こうか」


かくして夏柘と柚の秘密の遊園地デート?は幕を開けたのだった。