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恋愛相談とショコラシフォン



明海はその後、安心したのか眠ってしまった。きっと昨日、眠れなかったに違いない。圭は
明海をベットに寝かして、明海の部屋を出た。圭がリビングに戻ると柚が座っていた。


「圭にい明海どう?」
「うん。今寝たとこ。あいつ俺との約束守れてないってびびってたんだよ」
「えーそんなことないわよ。明海くんは本当に圭にいのおかげで変わったもの」

「柚もな!すごく女らしくなったよ。なんせ前は、とげとげしくって話も出来なかったからな」
「そ、そんなの昔の話でしょ!!それより、圭にい、私聞いてほしいことがあるの」


柚はそう言うと圭にまたお茶を入れて圭の隣に座り、昨日の夏柘の相談をした。圭はそれを
黙って聞いていた。


「私ね、夏柘のこと好きだと思うのよ。でもどうしていいのかわからない。昨日は勢いで告白
しちゃったけど、好きだからってどうしたらいいのかわからないのよ」
「そうか」
「でも、私夏柘のこと諦めたくないの!」
「その気持ちがあればいいんじゃねえ。それがお前の答えだよ」
「どういうこと?」

「お前の答え、つまりお前がこれからどうしていきたいのかの答えだよ。何をしたらいいかなん
てそれはやってみないとわからない。何でもそうだけどな。ただお前にはちゃんとどうしたいの
か答えが出てるからやりたいようにやればいいんだよ」

「・・・圭にい難しいよ」


柚には圭の言ってる意味がわからなかった。それは無理もない。義理チョコ配りしかしたことが
ない柚にとっては恋愛なんてまだずっと難しいことに思えた。そう例えて言うならば単語も知ら
ない英語で会話をするかのごとく。


「好きなように素直に動いてみろって言ってんの。何も好きだから特別にする必要なんてないん
だって。自然と気持ちに流れを任せてさ」
「それじゃあ何も変わらないじゃない」

「お前、何望んでんの?」
「え?!何って?」
「お前、そいつと付き合いたいの?彼氏にしたいのか?」


そう言うと今まで軽く笑顔も交えながら話していた圭の表情が変わった。


「それははっきり言って、今の段階じゃ無理だぜ。言わせてもらうけど、お前はまだそいつに
気持ちを打ち明けただけだ。しかもそいつには『他の人は絶対に好きにならない』っていうくら
いに好きな人がいる。つまりそんな相手をお前は好きになったんだ」

「なんでそんなこと言うの?それくらいわかってるわよ!わかってるからどうしたらいいのか
相談したんじゃない」
「わかってないだろ!!お前、そいつを好きになるってことは何も求めちゃいけないんだ!!」


圭は怒鳴りつけるかのように柚の目を見て言った。真剣に話す圭のまなざしを見ながら柚は
少し涙を浮かべていた。


「柚、片思いは、相手に見返りなんて期待しちゃいけないんだよ。自分がこうするから相手にも
こうしてほしいなんて思うのはお互いが同じ気持ちじゃないと負担以外の何者でもないんだ。
好きなら求めたくなるのは十分分かるけど、でも・・・それは今、柚がすることじゃない。
これからそいつを好きなことで苦しむことがいっぱいあると思う。けど、それに負けないで
そいつを好きな気持ちを大事にしていけばいい。それが今することじゃないのかな」

「・・・圭にい」


柚は抑えられなくなった涙を浮かべながら圭に抱きつく。圭は明海と同じようにゆっくり柚の頭
を撫でた。そして窓から遠くの空を見つめていた。圭が言ったその言葉はまるで自分に言い
聞かせているようにも思えた。


「た、卓真俺、終わった」
「そ、そうかお前も終わったか。俺も終わった」
「じゃ、帰る?」
「そ、そうだな」


銭湯の掃除をしていた卓真と夏柘は完全に掃除中一言も交わさず、朝、会話してもう夕方に
なっていた。そして、約半日過ぎて話した会話がこれ。2人はお互い同じことを考えていた


『(明日は柚と明海が来ますように)』


「ちょっと明海そのケーキ私が狙ってたのに」
「たとえ柚でもオレのこのショコラシフォンは渡せないぜ」
「あんた姉を敬うってこと知らないの!」
「オレはいつだって柚をちゃんと守ってるんだぜ。これくらいのご褒美くれよ!」


 一方相河家では圭のためにと母親が買ってきたケーキで柚VS明海のショコラシフォン
争奪戦が行われていた。2人ともさっき泣いていたとは思えないくらいの元気さだった。
ケーキを奪いあう2人はいつしかゲーム対決になっていた。


「いいわね?明海負けてもうらみっこなしよ!!」
「柚だって負けたら一口もやらないからな!!」


今日の主役をさしおいて、柚と明海のゲームは始まった。プレステ。しかもなぜかゲームは
カーレース。2人は必死にテレビにかじりつきコントローラーを握った。その横で何があったの
か後で気づくことも知らずに・・・。


「ヤッター!!オレの勝ちだ!!」
「くやしいー!!でもいいわよ。私は潔く負けを認めてあげるわ」
「やったー!!オレのショコラシフォン♪ってあー!!」
「悪いな明海、お前のショコラシフォンは俺が食ったぞ!!うまかった」
「けいー!!!!」
「明海、圭くんはお客さんなんだから我慢しなさい。ほらこれでも食べて」


と母親に渡されたケーキは白いケーキの上に苺が乗っているわけでもなく、チーズケーキでも
なく、モンブランだった。


「も、モンブラン・・・」
「残念ねー明海」


いつの間にか柚は苺ショートケーキを最後の一口まで食べ終えていてニヤニヤしながら最後
の一口を食べた。


「あーおいしかった!ごちそうさま」
「・・・・け、圭のバカー!!」


明海は好き嫌いはなくなったもののモンブランだけは好きになれなかった。半泣きになりながら
無理にモンブランを口に入れた。まずいと言いたかったが、きっとそう言うとまた圭に怒られる
と思い、一生懸命食べた。


「よくがんばりました。てかショコラシフォンなぁもう一個あったわ」


口をいっぱいしながら明海は圭をにらんだ。吉原圭。いい奴なのか悪い奴なのか。


「あ、そうだ俺、明日銭湯の手伝い行くわ」


圭はそう言うと、二カっと笑ってピースサインを柚と明海に向けた。