11 けんか。そしてその先には・・・ 「あっお帰り」 「・・・おう」 「卓真玄関に夏柘いたでしょ?さっきから休憩にしよって言ってるんだけど、自分はいいって 言ってるのよ。呼んできて」 「・・・・」 「卓真!!聞いてるの?」 「お!?おう」 「早く夏柘を呼んできて!!」 失意?のどん底から銭湯に戻ってきた卓真に柚は大声を張り上げた。卓真が聞いているか 聞いていないかあいまいな態度だったからだ。卓真は渋々玄関にいる夏柘を呼びに行った。 「おい柚!夏柘いない」 「えっ!?」 「あいついない」 「嘘。だってさっきまでいたのよ」 玄関掃除をしているはずの夏柘がいなくなっていた。卓真は家に帰ったのではないかと落ち着 いた表情を見せ掃除を再開するが、柚にはさっきの夏柘の態度といい何か引っかかる部分が あって仕方なかった。 「夏柘だ!!」 明海がガラガラと扉を開けて入ってきた夏柘に気づいた。 「夏柘!!?」 「どうも」 「どうもじゃないわよ!どこ行ってたのよ!」 「どこって家に帰ってただけだけど」 「ちゃんとそれならそうって言ってくれないと心配するでしょ!急にいなくなったら」 「それって俺が小学生だから?」 「何言ってるのよ!そうじゃないでしょ。さっきから何なの?あんた急に態度変えて」 「俺のこと小学生だから手加減しないって言ったのはそっちじゃん」 二人はお互いを罵声するような言葉を言い合っている。その状況に落ち着いて離れて掃除 していた卓真も異変を感じて二人の元に近づいた。 「お前らちょっと落ち着けよ。何があったんだよ?」 「夏柘が、私に・・・」 「もういいよ。勝手にそう言ってれば。俺にむかついてるならもう来なくていいし」 最後の言葉にとうとう柚も我慢が出来なくなって、荷物を持って明海を置き去りに一人その場 をあとにした。 「柚」 卓真の呼んだ声にも耳を傾けることなく。 柚は家に帰り、部屋で一人うつぶせていた。夕方、卓真が明海を連れて帰ってきてくれたが 部屋から一歩も出ずにご飯も食べずにいた。 「柚」 「入ってこないで」 「明日もう行かないのか?」 「行きたかったら明海ひとりで行きなさいよ」 心配する明海も邪険に扱い、一人布団のなかにもぐっていた。明海は何も言えず、そっとドア を閉める。数分後、また部屋の扉が開いた。 「もう明海、入ってこないでよ」 「柚、どうしたんだ?お母さんから柚がおかしいって電話かかってきたから帰ってきたよ」 「お父さん!?」 忙しいはずの父親が自分のために帰ってきてくれた。柚は今まで抑えていたものがあふれ 出して、父親の前で号泣した。 「そうか、下野が・・・」 「夏柘を、心配、した、のは、小学生、とか、関係、なくて・・・」 「下野はちょっと妙に大人ぶっているところがあるからな」 「私、は、ただ、単に、夏柘、が、心配、だっただけ、なのよ」 泣きながら声にならない声で柚が話す。父親は黙ってそれを聞いていた。それに安心してか 柚はいつしか寝息を立てて、眠っていた。父親はそっと布団をかぶせて「おやすみ」と部屋を 後にした。 翌日、柚は時間になっても部屋から出てこなかった。昨日の今日だと、卓真は柚は来ないと 思い明海だけを迎えに来た。母親は昨日父親から柚の話を聞いていたので無理強いさせるこ ともなく寝かせている。そして、家に一人柚を残し、買い物に出かけた。柚はそれでも部屋から 出てこなかった。 「明海―今日も俺が家まで送ってやるからな」 「・・・・」 「にしても柚も夏柘も一体何があったんだろうな」 「・・・・」 銭湯までの道のり、明海は言葉を発しなかった。そして、銭湯に着き、夏柘の姿を見たとたん に近づいていき大声でこう言った。 「柚を、泣かせるな!柚を泣かせるなー!!お前のせいで柚はずっと昨日から一歩も部屋 から出てこないんだ!!お、おねえちゃんに謝れー!!」 昨日の父親と柚の会話を明海はこっそり聞いていた。そして初めておねえちゃんと口にする。 夏柘は俯いている。明海はそういうと堪えてきた涙を目に浮かべて「今から謝りに行けー!!」 と言い号泣した。卓真はそんな明海をそっと抱き上げ、夏柘に言う。 「行けよ。こいつこんなに言ってるんだし、お前が悪いと思う。柚だって本当にお前が心配 だったんだ」 夏柘は卓真と抱き上げられた明海の顔を見て頷いた。そして家の場所を教えてもらい、柚の 家に走った。 ピーンポーン インターホンの音に気づいたけど柚はでようとはしなかった。それでも再度、インターホンの 音は鳴り止まない。そして何度も鳴り続けたインターホンが鳴り止むとドアが開いた。柚がベッ トから起きると母親が帰ってきたのか確かめようと部屋のドアを開ける。そこには夏柘が立っ ていた。 「夏柘・・・」 「柚、ごめん!!俺、昨日ひどかった」 「・・・・」 「俺さ、人に小学生扱いされたくないんだ。で俺が小学生だって気づいて柚が手加減しないって 言ってきたからカッとなって・・・」 「・・・そうだったんだ。ごめんね。私もそんなこと言って」 「いや、でも明海が柚が俺のせいで泣いてるって聞いて、俺最低なことしたなって」 「ううん。私も悪かったんだもん」 柚の顔にはいつしか笑顔がこぼれている。そして、やっぱり自分は夏柘が好きだと実感した。 しかし、その思いは夏柘の一言で引きちぎられる。 「俺さ、大事な彼女がいるんだ。もうその人しか好きにならないって思ってる。その人も年上 でさ。だから小学生に見られたくないんだ」 夏柘の突然の一言。『彼女がいる』柚はその一言で頭の中が真っ白になっていく自分に 気づいた。そして、自分が改めて確信した思いで胸が締め付けられそうになっていた。 一方銭湯の卓真と明海は・・・ 「明海、落ち着いたか?」 「おう」 「それにしても何であいつらけんかしたんだろうな」 「さあ」 「まあ落ち着いたら話してくれるよな(俺一応あいつのだんなになるわけだからな。ってことは 明海は俺の義弟になるわけか。じゃぁ今のうちに懐いてもらっておかないとな)」 「何考えてるんだ!役立たず!!オレらだけでも掃除しないと片付かないだろ!!」 「(こいつー!!)」 さっきの泣いていた態度からころっとしれっとした態度に変わった明海の言葉に やっぱり義弟は無理だとおもう卓真だった。 |