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大バカさんと小学生としまいこんだ恋心



今柚は一人部屋にいた。父親の言葉を聞いてただ愛想笑いをして、帰ってきていた。


「お父さんの生徒?」
「そうだよな?下野」
「・・・はい」

「下野は学年でも一番背が高いから中学生にも間違えられるもんな」
「・・・そうですね」
「そうなんだ!夏柘お父さんのクラスってことは小学・・・」

「小学5年生だよ」
「そっかー大人っぽいから同じくらいかと思ってた。あっ私卓真手伝ってくるね」


柚はそう言ったあと、卓真の元に去っていった。この感情は恋愛感情かそれとも勘違いして
いた自分に腹立たしく思えた怒りか。思っていたことが違ったときの侘しい気持ちか・・・。
とにかく一刻も早く夏柘から離れたかった。


「私、何を思ってたんだろう。別に夏柘が小学生とかだからって関係ないわよね」


それから柚は卓真の元に行き、体調不良だと言って父親と明海を置いて一人先に家に帰って
きた。


「・・・夏柘が小学生・・・私、何を思っていたんだろう。何を期待していたんだろう。夏柘に・・・
何を求めていたんだろう。別に小学生だからって関係ないわよ!!夏柘は夏柘なんだから・・・
なのに、まるで少女マンガの主人公のような・・・この気持ちは何?私、夏柘のことが好き!!
好きなの!それなのに・・・それに気づけたのに・・・」


柚は自分の心と葛藤していた。あなたは恋に気づいたとき、その恋を・・・進めますか?
柚は・・・


「忘れよう。小学生に恋心なんて抱いちゃいけないわ!!」


柚はこれから自分の心を閉ざすことを決意したのだった。


「明海―!!おはよう!行くわよ!!今日もガンガンに掃除しないとね!」
「あれ?柚もう大丈夫なのか?」
「あったりまえよ!最近怒りを抑えすぎてたからおかしくなっちゃってただけ!!今日からまた
復活よ!!」
「なんかいつもより元気そうだなぁ」
「うん!!」


柚は穴の開いたコップの中に無理やり水を入れようとしていた。


「おはよう!卓真!!」
「お、柚!もう大丈夫なのか?」
「最近怒りを抑えてたからその反動みたいなものよ!今日からまた頑張るわよ!!」
「(こいつ俺に会うために、わざわざ無理してくるなんて・・・そんなにも俺のこと・・・)」

「おはよう」
「夏柘おはよう!さて、夏柘の正体も分かったことだし今日から遠慮せずばしばし行くよ!!」


柚は笑顔で夏柘の頭をぽんとたたいて掃除道具を取りに行った。夏柘はそれから態度が
変わっていった。今日は柚、明海、卓真が男湯の着替え場の掃除担当で夏柘は自分から
下駄箱の掃除をやる。掃除を始めて3時間が過ぎようとしていた。


「卓真―!!あんたちゃんと掃除してんの?もうごみが残りまくってるでしょ!明海も遊んで
ないでしっかりしてよね!!」
「柚―柚も全然手が動いてないぞー」
「ちゃんと動いてます!!はいさっさと掃除する!!」

「(あいつ、いつも俺のこと見てるんだなぁ。俺が掃除してないこともちゃんと見てるし、も、
もしかしたら俺の部屋にラブレターとか入ってるんじゃないだろな??いやもしかしたらそうか
もしれない。それに気づかなかったからこないだ寂しそうに帰ったんだ。ここで返事するべき
か?いや、でもなんて書いてあるかわからないしな。やっぱ付き合ってくださいか?いや好きで
すかな?んーなんだろ?とにかく今から家に帰って調べてみるか。)」

「卓真―あんたまた手動いてないわよ!!さっさと・・」
「柚!俺家に帰ってくるわ!!」
「は?何言ってるのよ!」
「すぐに帰ってくるから!!」


卓真はそういうとすぐに持っていたほうきを柚に渡して颯爽と駆けて家に帰っていった。


「何考えてるのよ卓真は」
「柚―そろそろ休憩にしようぜ」
「そうね。卓真も出て行ったし、休憩にしましょうか」
「おう」
「じゃあ玄関の夏柘を呼んでくるわ。明海はフルーツ牛乳出しておいで」
「らじゃー」

「夏柘!休憩にしよっか」
「・・・・」
「夏柘?」
「あ、何か用?」
「休憩にしよ」
「あーいいよ勝手にしてください。俺、まだ疲れてないんで」
「どうしたの?怒ってる?」
「全然。こっちはやっときますから気にしないでください」


夏柘の態度はおかしいくらいに変わっていた。冷ややかで冷めた目をして柚を見ている。柚は
その夏柘の目が氷のとげのように刺さってきたかのような気がした。


「あ、うん。じゃぁ疲れたらこっちおいでね」
「・・・・」


夏柘はそれに返事をすることはなかった。一方卓真は・・・。


「ない。ない。ない。ない。何でないんだ?あいつどこに入れたんだ?」


ありもしないラブレターを必死に探していた。


「ん?これか???」


そして机の引き出しの奥から出てきた白い紙を見つけた。


「よし!読むぞ!!好きですか?付き合ってくださいか?・・・・
これは、これは俺が昔、書いた・・・たぬきのらくがきじゃねえかー!!!!!」


大バカの卓真の叫びはいつまでも響き続けているのであった。