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今日から一部屋での同棲生活が始まる。
もちろんご飯やお風呂は家でだけど寝るのが同じ場所ってどうなんだろう。
あの時は放っておけないって思って
勢いでいいって言ったけど正直怖いっていうのもあった。
だってさっきの辻宮は今までのどの男よりも怖かったし、
またあんなことをされたらって思いもある。
でも辻宮はもう絶対にしないって言ってたから信じなきゃいけないわよね。
「お母さん、ちょっといい?」
あたしは辻宮がご飯を食べ終えてお風呂に入っている時間を見計らって
お母さんに声をかけた。
こんな話を出来るのはやっぱりお母さんしかいないと思うから。
お母さんは洗い物を済ませるとあたしの部屋で話そうかと促してくれた。
「どうしたの?」
「んーなんであいつと同じ部屋で寝なきゃいけないの?」
「ああ。やっぱり不安よね。
私もまだ嫁入り前だし、
やっぱり隼人くんも男の子だからって思ったんだけど・・・
彼の意思に負けたのね」
「え?」
「あの子、まだ話してないのね。
詳しいことは本人から聞いたほうがいいんだけど・・・
とにかく事情があるの。
もちろん彼は私達の前で未彩には
絶対に手を出さないって約束までしたから許したのね」
「どういうこと?」
「あの事件がなくても彼はうちの家で住むことになってたのよ」
え?あの事件がなくても辻宮はうちの家で住むことになってた?
どういうことなの?まるで全部が仕組まれていたような・・・。
分からないのはあたしだけ?
聞かなきゃ、聞かなきゃいけない。
あたしは部屋を出て急いでお堂に戻った。
これは全部仕組まれてたことなの?
違うよね?違うでしょ?お願い辻宮、そう言って。
「あ、風呂入ってきたから」
「・・・辻宮、話あるの」
お堂に戻ると辻宮が髪にタオルをかけて風に当たっていた。
あたしは急いで辻宮の手を引き、
お堂の奥の寝室にする部屋に彼を連れて行った。
ねえ、何なの?辻宮は一体何を考えているの?
「・・・聞かせて」
「え?」
「あの事件がなくても辻宮はここに住むことになっていたの?」
「・・・・」
「そうなの?一緒の部屋に住みたいっていうのも親に頼み込んだってほんと?」
「・・・話すよ」
あたしまた泣いてた。なんで悲しいのか分からない。
だって別に辻宮があの事件がなくても
この家に住むことになってたなんてどうでもいい。
そんなことじゃない。あたしだけが何も知らなかったのが嫌だったのよ。
「・・・あのさ、元々ここに来るって話はずっと前から出てたんだ」
「どういうこと?」
「俺の親さ・・・あんま言い話じゃないんだけどW不倫してるんだよ。
でいつも家に帰っても一人で、そんなとき師匠に声を掛けてもらって
ちょくちょくここに来させてもらってたんだ。
その時にどうせならここで暮らせばって言われててさ。別にそこまではって思ってた。
まぁお前も嫌がるだろうと思ったしさ」
「それであたしが声を掛けたときにいいかって思ったのね?」
「ああ。お前がいいんなら俺もさっさとあんな家出たかったし
ここすごい好きだしな」
「そうだったんだ。
でもあたしと一緒の部屋に住みたいって頼み込んだのはどういうことなの?
正直、さっきは勢いもあった。でもあたし混乱してるのよ。
辻宮がどうしてそんなことを親まで頼み込んだのかわからないの。
仮にもね、あたしたちが恋人同士ならそれも変じゃないと思う。でも・・・」
まただ。胸刺し終わったと思ったのに。いつまで続くんだろう。
辻宮の目がまっすぐ見れない。辻宮も視線を逸らしてる。
辻宮はあたしのことどう思ってるの?
こんなとき普通の男ならお前が好きだからって言ってくれるはず。
辻宮もそう言ってくれるの?もし、そう言ってくれたら・・・
「それは・・・」
「それは?」
「・・・・」
辻宮の言葉が突き刺さる。
なんだ。そういうこと。そういうことだったのね。
だったらもういっそのことあたしを抱けばいいじゃない。
目つぶって抱いたら同じでしょ?あたしも演じてあげるから。
「・・・俺の好きな女に似てたから。もう手には入らない。
だからお前を手元に置いておきたかったんだ」
これはきっと罰だ。
あたしが百戦錬磨ってことに夢中になって簡単に辻宮を落とせるって意気込んで
誘いに乗ったから。
優しくしてくれたのも全部彼女に重ねてたってわけね。
あの写真の人か。あたしに似てたかな。
あ、顔ちゃんと見ておけばよかった。どんな女?
あたしに似た女って。かわいいんでしょ?綺麗なんでしょ?
あんたが好きな彼女なんだからさぞかしいい女なんでしょ。
「・・・そう。そんなに手に入らない人なんだ。
だったらあたしを代わりに抱く?
どうせあたしだってあんたに近づいたのは
百戦錬磨の名前に傷をつけないためだもの。
だから別にいいわよ。その代償としてあたしの体をその女に重ねて抱けばいいのよ」
「お前!何言うんだ!!」
「それともこんな体じゃ綺麗なお姫様の代わりになんてなれないかしら?」
「いいかげんにしろよ!」
「・・・どうして優しくしたの?どうして心の中に入ってきたの?
どうしてこんなに胸が痛いの?全部全部あんたのせい。
あたしを好きにさせてどうしてくれるのよ!!」
言うだけ言ってあたしは勢いよく外に飛び出した。
行き場なんてない。
だけど、だけどあんな家になんていたくない。
突きつけられた辻宮の気持ち。
知りたくもないのに知らされてしまった自分の気持ち。
辻宮が好きなんて認めたくない。
あいつはあたしのことをただの身代わりとしか思ってなかったのに。
そういやあいつあたしのこと一度も名前で呼んだことなかったもんね。
そう。呼べるわけないわよね。だって身代わりなんだもの。
恋ってこんなに辛いもの?
楽しく遊んで楽しい時間を過ごして。そういうもんじゃないの?
こんなに胸が痛いならあんな男好きになるんじゃなかった。
落とされたのはあたしってことね。
「なんであたしってよりにもよってこんなところに来たの?」
辻宮の家の前。あたしってば思考回路がまひしちゃったのね。
こんなところに来ても仕方ないのに・・・
あんなこと言われたのにまだ辻宮を思ってる。
こんなにも辻宮を求めてる。
あいつのお経が聞きたい。あいつの声が聞きたい。
あいつに好きになってもらいたい・・・。
「つ・・じみや。・・・隼人・・・」
あいつの名前を呟きながらあたしはしゃがみこんだ。
月だけがあたしを照らし続けてくれていた。
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