荒れた教室。辻宮は騒ぎを聞きつけた先生に連れて行かれた。

あたしはその場にへたりこんでしまった。

どういうこと?辻宮が喧嘩の百戦錬磨?

央が保健室から帰ってきた。口元にはバンドエイドを貼られている。

すべてはこいつのせい。あたしは央のところまで行き、

ばんと大きな音を立てて机をたたいた。


「なんだよ?」

「何であんなこと言ったの?嘘ばっかりじゃない。
あんたから無理に顔がいいから付き合ってくれとか言ったりキスしてきたんでしょ。
何であんな嘘つくのよ」

「・・・辻宮をキレさせるためだよ」

「はあ?」

「あいつ絶対そういう言い方すればキレルと思ったんだ」

「・・・そのためにあたしにキスしたの?」

「・・・そのほうが演出としていいだろ?」


何こいつ。友達だと思ってたのが間違いだった。

今では悪魔にしか見えないわ。いい加減にしてよ。

なんでこいつにこんな風に振り回されないといけないの?辻宮・・・ごめん。

あたしのせいであんたこんなやつ殴ったのよね。


「未彩・・・」


あたしはぽんと風香に肩をたたかれ教室を出た。風香と颯太と一緒に。もう嫌。

なんでこんな風にならなきゃいけないの?

辻宮は喧嘩の百戦錬磨で央はそのためにあたしにキスをした。

もう、辻宮に関わるようになってあたし涙腺緩んできた。

風香が手をつないでくれてるんだけどその手の上に涙こぼしちゃった。


「・・・未彩、颯太が話すって」

「・・・うん」


さっきまでいた屋上。すごく安らげた場所なのに今は違う。

さっきと同じ場所に座った。

今、気付いたけどあたし震えてる。辻宮が怖かったから?

違う。わかんないけど震えてる。

風香があたしの背中をさすってくれた。


「未彩、隼人のことなんだけどさ・・・
あいつ中学のときけっこう荒れてたんだよ。お前は知らないだろうけど。
家庭のこととかいろいろあってさ。めちゃめちゃひどかったんだ。
喧嘩売られたら買うし、それこそ寺元が言う喧嘩の百戦錬磨ってやつ」


颯太の言葉が痛い。あたしは辻宮の言葉を思い出していた。

「百戦錬磨っていい意味ばっかでもねえかもよ」

それは自分のこと言ってたんだ。あたしは何にも辻宮のことわかってない。


「隼人さ、でももうそんなことしなくなったんだ。お経に興味持ち始めてさ。
最初は俺も何でお経なんだって思ったけど、俺は正直良かったって思った。
あいつが喧嘩しなくなって落ち着いてくれたからさ」

「・・・うん」

「あいつがキレたのってほんとお経をやりだしてから初めてだったんだ。
よっぽど寺元に腹が立ったんだと思う」

「それって・・・」

「あいつさ、人を馬鹿にしたような言い方するやつ大嫌いなんだ。
寺元はそれ知ってた。
喧嘩してたって言っても絶対弱いやつをいじめたりしなかった。
あいつ人一倍正義感が強いんだ」

「・・・そっか」

「それにさ、やっぱ未彩に心開きつつあったんじゃねえかなって
俺は思ったりもするんだ。
俺が未彩に隼人を落とせって言ったのは百戦錬磨の名前とか関係なく
未彩なら隼人を隼人なら未彩を
お互い間違った道から正せると思ったからなんだ」


あたしが辻宮を?辻宮があたしを?颯太何言ってるの?わかんないよ。

でもね、あたしは少なくとも辻宮に心開いてたって思う。

だってすごく安心できたの。辻宮と一緒にいると。

ずっと怖くて知られたくなくてお寺の娘だってことが嫌だったのに。

あいつはそんなあたしの家族を褒めてくれた。

そしてあたしの家の子になりたいって言ってくれた。

それだけじゃない。あたしのSOSにも気付いてくれた。

癒されたの。辻宮が傍にいてくれたら。


「あたしができることってあるかな?」

「え?」

「あたしが辻宮に何かできることないかな?
だって辻宮あたしのことで央を殴ってくれたんだもん。
あたしもなんかしたいよ」

「未彩」

「おい、辻宮が停学だって」


屋上の扉が開いてクラスメートの一場がやってきた。

停学?あたしは立ち上がって急いで教室に走った。

何で辻宮が停学なの?だって辻宮何も悪いことしてないじゃない。

悪いのは全部央なのに。何で辻宮が?

あたしのせいで辻宮が停学なんて嫌。


「・・・辻宮」

「・・・・」


教室に戻ると辻宮が帰る準備をしてる。

話しかけても何も言ってくれない。目もあわせてくれない。

あたしは辻宮に近づいた。ふと視線を落とすと辻宮の手も血が出ている。


「辻宮・・・」

「・・・・」

「ごめん。あたしのために」

「お前のためじゃないから」

「・・・あたし先生に言ってくる」

「余計なこと言わなくていい」

「だって・・・」


辻宮。何でそんな冷たくあしらうのよ。

優しかったり、冷たくなったり、何でこんなにあたしを振り回すのよ。

教室を出てすたすたと歩きだす辻宮。許さない。

このあたしに百戦錬磨をやめさせておいて今更他人ぶるなんて。

あんたにはまだ教えてもらわなきゃいけないことがあるのよ。

あたしは廊下にでて空気を吸って勢いよく叫んだ。


「辻宮隼人!!待ちなさいよ!あんたあたしにいっぱいいろいろ言ったあげく
さっさと去るつもり?まだお経だって教えてもらわなきゃいけないし、
もっとあんたには聞きたいことがいっぱいあるのよ。
そのまま去るなんて絶対に許さない!
あんた今日からあたしの寺で修行しなさい!!」


辻宮が振り返る。っていうかみんな廊下見てる。

あーあたし自分でバラしちゃった寺の娘だってこと。あーもう嫌。

辻宮にはほんとに調子狂わされる。どうしよう。あーもう!!足音が近づいてくる。

ちょ、ちょっと怖いんだけど・・・あたしの前で止まる。

何言われるの?あたしまで殴られるんじゃないでしょうね?


「・・・分かったよ」

「へ?つ、じみや?」

「今日から俺、お前の家で暮らすよ」


何言ってるのよーって自分で言ったのよねあたし。

でもそれは売り言葉に買い言葉っていうか売り動作に買い言葉って・・・

えー!!あたし辻宮と同棲?

あ、でもそんなのうちの親や辻宮の親が許さないわよね。


「で、でもほら辻宮の親とかさ・・・」

「あんなのいてもいないようなもんだし」

「でもでも・・・うちの・・・家族が・・・」


『隼人がうちに来てくれれば寺は安泰じゃ』
『隼人くんはいい子だから大歓迎だよ。いつまでもいてほしいね』
『あら〜隼人くんが来るなら毎日ご馳走ね』
『隼人、大歓迎だぜ。俺の兄貴になってほしいくらいだ』 


あー最悪だわ。うちの家族は絶対そう言うに決まってる。

どうしよう。あーどうしよう。

よし、今言ったことはなしすればいいんだわ。よし、そうしよう。


「あ、辻宮・・・」

「晴れて俺もあの家に住めるのか」

「辻宮?」

「お前が言い出したんだ。覚悟しろよ」


ひー。どうしようどうしよう。あー誰か助けて!!

辻宮が何かたくらんだような顔で見てるし。

あたしなんてこと言ってしまったのよ。

しかも寺の娘もばれてしまったし。

あーもうこんなことなら百戦錬磨の未彩ちゃんでいればよかったわ。

とにもかくにもこうしてあたし岩瀬未彩と

この男辻宮隼人の修行もとい同棲が始まることになった。