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日曜日、辻宮と駅前で待ち合わせ。あたしは気合を入れてメーク。

ファッションだって気合を入れてミニにチューブトッブ。

どこから見ても完璧。行きかう人だってみんなあたしを見てる。

でも・・・行き先は寺。まったくロマンのかけらもないんだから。

しかもこのあたしを待たせるなんて辻宮いい根性してるじゃない。

しばらくすると辻宮が黒のTシャツにジーパンというラフな姿でやってきた。

何あいつおしゃれくらいしてきなさいよ。

でもあいつの姿を数人の女の子がちらちら見てる。

あいつってかっこいいのかしら?


「お、じゃあ行くか」

「は?何言ってんのよ・・・あ、いや、うん。行こう」


遅れて待たせたことに謝りもしないで勝手にすたすた歩くなんて、

いやここでブチ切れたらあたしの本性がばれちゃう。

冷静になってあたしは辻宮について行った。ただ歩くだけ。

駅で待ち合わせたんだから電車使いなさいよ。

はぁ。こんなことなら高いヒールなんて履いてくるんじゃなかった。


「なんだよ?疲れたのか?」


あたしが途中立ち止まると辻宮が振り返って声をかけてきた。

けっこう優しいところもあるんじゃない。

しかし、前言撤回。もうすぐだからさっさと歩けだとさ。

ふざけんなー。もう帰りたい。

約1時間くらい歩くと見覚えのある風景にたどり着く。

もしかして辻宮の行きつけの寺って・・・


「つ、辻宮くん、今から行くお寺ってどこ?」

「あー梅福寺ってとこ」


やっぱり。これはもう逃げるしかないわ。

足が痛いとかなんとか言って逃げなきゃ。絶対に行くわけには行かないわ。


「つ、辻宮くん、あ、あたしやっぱり・・・」

「もう着いたぜ」

「・・・ほ、ほんとね」


あたしの前には梅福寺と書かれた木の看板が掲げられてる。

あー最悪だわ。さっさと逃げなきゃ。

あたしは一歩足を後ろに下げた。去る。去るしかないわ。後ろを振り向いて・・・


「何してんだ?ほら行くぞ」

「きゃ」


辻宮があたしの腕を掴んだ。

こんなの朝飯前なのにいきなりふいうちをつかれたからびっくりしたじゃない。

でもあたしはここに入るわけにはいかないのよ。


「ご、ごめんなさい。きゅ、急用を思い出して」


あたしがそう言ってもまったく聞き耳持たず。

辻宮は腕を掴んだまま行くぞと中に入ってった。

どうか誰もでてこないで・・・。

その願いはむなしく一番会いたくない人に会ってしまった。


「あ、師匠」

「おお。隼人来たのか。ん?そっちのお嬢さんは?」

「ああ。俺の趣味に興味があるって連れてきたクラスメート」

「ん?」


あたしは顔を下に向けて声色を変えた。


「こ、こんにちは」

「・・・・」


バレたかな?ってかバレて当然よね。

気付かないほうがおかしいわよね。さぁなんて言うのかしら?


「・・・どうぞ。入りなさい」

「・・・し、失礼します」


あれ?ばれなかったのかな?

あたしは不信な思いを抱きつつ中に入った。何をたくらんでるの?

お堂に通され、正座をさせられる。こんなミニなんか履くんじゃなかった。


「隼人、どうじゃ進んだか?」

「んーぼちぼちかな。俺もちゃんと読めるようになりたいのになかなかさ」

「まだまだ修行が足りんからじゃ」


辻宮が話してる。なんか学校で受ける印象と全然違うな。すごい楽しそう。

こいつってこんな顔もするんだ。でもネタがお経って・・・。


「そちらの娘さん。お経に興味があるのかね?」

「え?あ、は、はい」

「ほう。若い娘さんにしては感心じゃの。
うちにも孫がいるがほんとにバカ孫でのう。家の手伝いはせん。
帰ってくるのは遅い。勉強はせん。
あげくには化粧は濃いし、いいところまるでなしじゃ。
まったくあんたさんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいのう」

「・・・そ、そうなんですか。あ、私、お手洗いをお借りしたいのですが・・・」

「場所はおわかりじゃろ?」


そう言ってにやっと笑う。あたしに合わせてくれたかと思えば何なのよ。

あたしは軽く苦笑いを浮かべ席を立つ。

もう分かったかもしれないけど、ここはあたしの家。

正式には寺の隣の家があたしの家なんだけど。

で、あのおじいは正真正銘のあたしのおじいちゃん。

さっきは他人のふりしてくれてたみたいで感謝してたのに、人の悪口言うなんて。

あたしは辻宮にここが自分の家だと知られないように急いで自分の家に戻った。



「お母さん」

「あら、めずらしい。出かけたんじゃなかったの?」

「ちょっとね。それより、あたしがここの娘だってことは秘密よ」

「はい?」


うちに戻るとあたしは台所でそうめんをゆでて

昼ごはんの用意をしているお母さんに叫ぶようにして言った。

お母さんは目を丸くしてる。

日曜日にあたしが家にいるのなんてペンギンが道を歩いてるくらいめずらしい。

隣の部屋でくつろいでいた中学1年の弟の依智も何でいるんだよとやってくる。

そんなにいけないですか?あたしがここにいたら。

とにかくあたしは事情を説明した。


「え?隼人来てるのか?俺もお堂行こうっと」

「何であんた辻宮知ってんのよ?」

「隼人よく来るぜ。日曜日はほとんど毎週来て、飯食って帰るんだ」


知らなかった。って当たり前よね。

あたし日曜日に家にいないんだもん。あ、やばい。

こんなに遅かったらあっちのほうだと誤解されちゃう。

あたしはまた高いヒールを履いてお堂へと走った。

絶対にお願いね。と念を押して。



「あ、戻ってきたか」

「まああっちのほうじゃったんじゃよな」


おじい。あたしがお堂に戻ると辻宮が少しだけ心配そうに思っててくれたのに

おじいが余計なことをいう。

あたしは道に迷ってたんです。と言って正座した。おじい。マジで許さないわよ。


「さてそろそろ家のほうに行くかの」

「え?」

「あーこれから家にお伺いさせてもらうんだ」


じじいと辻宮は靴を履いて用意している。

いや、あたし今行ってきたんですけど・・・。

家に着くとお母さんがさっきのそうめんを氷の入った器に移してる。

いらっしゃいと言って。

依智は辻宮とハイタッチしてるし。

なんかあたしよりこの家に馴染んでるじゃない。

コタツ机にみんなで座った。真ん中にはそうめんの器。

そしてそれぞれの前にはつゆの入った器が置いてある。

いただきますといってみんながそうめんに手を伸ばす。

なんか久しぶりかも。こういうの。おいしいじゃない。

そうめんなのに。


「ただいま」


そうめんを食べ初めて数分すると

法事のお経をあげに行ってたお父さんが帰ってきた。

あたしはそうめんに夢中になっててお父さんに口止めするの忘れてた。


「おお未彩。今日はめずらしいな」


辻宮は驚いた顔してる。お母さんはあなた。という合図をするが時既に遅し。

もうばれちゃった。お父さん。

あたしはそうめんをただすすることしかできなかった。