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いつだって百戦錬磨。あたしに落ちないやつはいない。・・・はずだった。
あたしは岩瀬未彩。高校2年生
あたしが街を歩けば男はみんな釘付け。
だってあたしはかわいいんだもん。言っとくけど、一人よがりじゃないの。
168cmで3サイズは・・・まぁあえて伏せてもウエストは58cm。
それにパッチリ二重。文句なしの美少女でしょ?
「いくら未彩でも辻宮は落とせないでしょ」
「無理だな。隼人は」
「なんでよ?あたしに落とせない男はいないの」
「まあ現に俺も落ちたけど、あいつは絶対無理だな」
「ちょ、ちょっと颯太」
「今は風香だけだって」
いつものように颯太、風香カップルと学校終わりにカラオケ。
あたしって歌もうまいからほんとみんな聞き惚れちゃうの。
それでまあ3人でお菓子を食べながらこんな話をしてたわけ。
でも何その聞きづてならない話。あたしに落とせない男なんていないのよ。
「何言ってるの?辻宮なんてちょろいちょろい」
「あんた辻宮をなめてるでしょ?あいつはちょっとやそっとじゃ落ちないよ」
「・・・いいわ。この岩瀬未彩のプライドにかけてあいつを落としてやる」
っていうのがことの始まり。こんなのもう3日もあれば朝飯前よ。思ったらすぐ実行。
ってことであたしは次の日から早速辻宮落としの行動に出たの。
「おはよう辻宮くん」
「・・・・」
何こいつ。あたしの挨拶を素無視?
他の男子ならすぐおはよう未彩ちゃんって返してくる。
あたしをなめんじゃないわよ。
あたしはとことん辻宮に近づこう大作戦を決行した。
「辻宮くんっていつも休み時間とか何してるの?」
「・・・別に。邪魔だからどいて」
辻宮の席の前に座り、机に肘をついて上目遣いで聞いてみる。
まあこれでたいていは落ちるのよね。
でもあいつってばあたしを見るどころか邪魔と言ったあげくに
机の上で必死に何か書き始めた。あたしを見なさいよ。
でもこんなことでめげたりなんてしないわよ。
「辻宮くん何してるの?」
「・・・今邪魔だって言っただろ」
「あたし、辻宮くんが何してるのか気になるの」
「・・・気にするようなことしてない。俺にかまうなよ」
ムカーっ。何こいつ。マジ腹立つ。
さすがのあたしでもこの態度にはプッチン寸前。
それに気付いたのか颯太が話に入ってきた。
颯太は辻宮とけっこう仲良しだから辻宮も颯太の話には耳を傾けてる。
「まあまあ未彩がお前と話したいらしいんだって」
「俺と?」
「そうそうお前の趣味に興味があるみたいなんだよ」
趣味?颯太のその言葉に辻宮が少し顔色を変えた。何よこいつの趣味って。
「俺の趣味に?」
「それでお前と話したいらしいんだって。な、未彩」
「え?そ、そうなの。いろいろ教えて欲しくって」
颯太に話を振られたからちゃんとそれに乗ってみたら
意外に辻宮が食いついてきた。
「・・・へえ。俺の趣味に興味があるのか。それなら話は別だな。
よし、岩瀬、俺がいろいろ教えてやるよ」
にこっと笑う辻宮。ちょっとかわいいじゃない。
でもこいつの趣味って一体何なの?
辻宮はそういうとカバンの中から大量の本を出してきた。
漫画でも雑誌でもない。
「さあ好きなやつ読めよ。俺のオススメはこれだな」
そう言ってあたしに赤い本を渡してくる。私はそれを受けとり、中を開いてみた。
ひょっとしてこれって・・・
「どうだ?」
「・・・何これ?」
「何って俺の趣味だよ。お前ほんとに俺の趣味に興味があるのか?」
「え?」
「いやあ、あるに決まってるよな未彩。未彩はお経がBGMなんだぜ」
やっぱり。まさか辻宮の趣味って・・・
「そうだったのか。いや渡されて驚いた顔してるからさ。
聞くのが専門だったら読めるわけないよな」
「そ、そうそう」
「よし、じゃあ日曜日俺の行きつけの寺に連れてってやるよ」
「よ、よかったな未彩」
颯太がそろりと去ろうとする。こいつはめたわね。
寺?お経?冗談じゃないわよ。
なんであたしがそんなものに付き合わないといけないのよ。
じょうだんじゃないわよ。
颯太をにらみつけるとすまんって手を合わせてる。
辻宮は目をキラキラ輝かせてるし。
「よし、じゃあ日曜日にな」
ぽんとあたしの肩をたたいて辻宮は教室から出て行く。
あたしはすぐに颯太に駆け寄った。
「颯太―」
「わりって。あいつああでも言わないと女の話も聞きやしないんだって」
「だからってなんであたしがお経なんて聞かないといけないのよ」
「いいじゃねえかよ。だって・・・」
「颯太それ以上言うと・・・」
「ま、待てよ。とにかく隼人を落としたいんならお経しかねえって」
何が悲しくってお経や寺巡りに付き合わないといけないわけ?
しかも日曜日なんかに!!
でも百戦錬磨のあたしがこんなことでめげちゃいけない。
いいわよ。行ってやろうじゃない寺巡りだろうがお経だろうが
とことんつきやってやるわ。
あいつを落とすためならなんだってしてやろうじゃない。
岩瀬未彩を本気にさせたんだから覚悟しなさいよ。
こうしてあたしは辻宮落としのため寺巡りに付き合うことにしたのだった。
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