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あれから慧くんとは毎日数通のメール交換をするようになった。
お互いの高校の話をしたり、私の塾の話を聞いてもらったりしている。
慧くんは前に言ってた家庭教師をしてもらうことになったらしい。
その人は私たちよりも４つ上の人らしい。そんな他愛もない話を毎日していた。
FROM 森下 慧
今日はあいつに怒られた。俺にはやる気が見えないだとさ。
しかたないか。そっちはどう？
FROM 神崎 琉希
あーあ。確かに慧くんにはやる気がないのかもね（笑）
私は相変わらず。こないだやったテストもそんなに上がってなくて
また志望校・・・
「琉希！入るよ」
私が慧くんへのメールを打っていると６つ年の離れたおにいちゃんが部屋に入ってきた。
おにいちゃんは塾の講師をしている。
眼鏡をかけていてとても優しそうな顔だと塾でも評判らしい。
名前だって優って書いて「まさる」って読むその名の通り。私の自慢のおにいちゃん。
本当ならおにいちゃんの塾に通いたかったんだけど身内びいきが入ると断られ、
今の塾に無理やり入れられた。
「もしかして彼氏にでもメール？」
「ち、違うもん！！それより何の用事？」
おにいちゃんがさりげに私の携帯を見ようとしているのを遮り、
打ちかけたメールを消す。おにいちゃんは私の部屋を見渡していた。
「のり持ってないかな？」
「のり？？そんなの使わないから持ってないよ。ないからもう出てって」
「ちょ、ちょっと、琉希」
強制的におにいちゃんを部屋から追い出して鍵をかけた。
そして一息つくと慧くんへの返事を一から打ち直す。
メールを打ちながら私は慧くんへの気持ちが恋になるかもしれないと期待をしていた。
誰かを好きになれれば私は解放される。ずっとずっと私には抱えている気持ちがある。
それは決して叶うことのない思い。だから誰かに救ってもらいたくて仕方なかった。
でももうすぐそれが終わる。慧くんが私を救ってくれるはずだから・・・。
FROM 神崎 琉希
そろそろもう一度会わない？会っていろいろ話したいな
慧くんとメールをするようになって3ヶ月。
もはやメル友と化していたので私は彼にそうメールを送った。
数分もしないうちに返事は返ってきた。
FROM 森下 慧
ＯＫ！俺もそう思ってたんだ。なんか俺らメル友みたいになってたし（笑）
じゃ、日曜の１１時に前のとこでいいかな？
私はそのメールにOKと返事を送った。
日曜日までの間、勉強に身が入らなかった。
もうこのころの私には受験生という自覚がまったくといっていいほどなかったのだから。
日曜日までに一度行われた小テストでは散々な結果だった。
しかし、それすらも気にしないほど私は彼に期待していた。
「ごめんね遅くなって」
日曜日、着ていく服が決まらず朝から鏡とにらめっこ。
そして待ち合わせに1時間の遅刻をしていった私。怒られるかなっと思ったけど
慧くんはむしろ嬉しそうな顔をしていた。
「お、怒らないの？」
「別に。その服似合ってるよ」
遅刻原因を見透かされ慧くんが私の服を指差す。思ってもみない返しに拍子抜けした。
彼はまたホットコーヒーを口にする。そしてカップから口を離すと私にこう言った。
「琉希、付き合おうか？」
「え？」
「お前のメール毎日楽しみで仕方ないんだ。実は今日会うのも楽しみで仕方なかった。
最初声かけたときからなんか気になってて気付いたら好きになってた」
「慧くん・・・」
会うのは2回目。でもメール暦は3ヶ月。私は慧くんの言葉に頷いた。
慧くんのことをこれから目一杯好きになれるそう確信していた。
でもこのときにはもう歯車は狂い始めていた。
