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慧くんと付き合い始めてからも毎日のメールは変わらず、
たまには電話もくれるようになった。慧くんは私を不安にさせるようなことはしない。
私は彼の優しさがたまらなく嬉しくなり、本当に慧くんを好きになっていた。
今日は慧くんと付き合い始めて最初のデート。天気は祝福してくれているような快晴。
相変わらず何を着ていけばいいのか分からず、2時間前から鏡とにらめっこ。
あれはダメ、これもダメと格闘していた。そんな自分がなんかかわいらしくて仕方ない。
結局、ぎらぎらの太陽が当たる夏だったこともあり、レースのキャミソールに
薄いピンクのフレアスカート。そして買ったばかりのかごのかばんを持ち、
履きなれない少し高めのミュールを履いて家を後にした。
「おお今日はずいぶん頑張ったんだな」
私に会って第一声の彼の言葉。照れくさかったのかなんだろうかもしれない。
でももう少しいい言葉を期待していた。でもそれも彼の姿を見てどうでもよくなった。
この間の彼にもそう思ったけれど、彼は決してTシャツで私に会ったりしない。
どうやら彼もおしゃれをしてくれているのだろう。そう思った。
慧くんの今日の格好はまさにモデルさながら。
私が来る前に何人の人に声をかけられたのだろう。でもその人は私の彼氏です。
なんて胸を張りたくなった。そう、慧くんは私の彼氏。
「まあね。今日はどこに行くの?」
「あー今日はさ、家庭教師がテストできた褒美になんかおごってくれるらしくてさ」
「え?今日?」
初デートからいきなり部外者を入れるなんてやっぱり乙女心のわからないやつ。
私にとって初デートはもっと大切なものなのに。さすがの私もそれには反発した。
「なんで!!!今日は私たちの初デートだよ!私は2人で過ごしたい」
「そっか。じゃあ会うのは夜だし、それまでお前の行きたいとこ行こうぜ」
そう言って慧くんは私の手を取り、走りだす。
こういうところにはまだ慣れないけれどやりたいことを全部やる慧くんはすごい。
私ならきっとどちらかは諦めるはず。
「どこ行きたい?」
「んーどこでも!!」
手をつないで私の片手にはアイスクリーム。
慧くんがそれを食べようとするから私はわざといじわるしてみる。
慧くんは必死になって食べようとする。仕方がないからあげようかな。
「あま!!」
「もう食べたそうだからあげたのに」
「お前選ぶ味がおかしいんだよ。なんだよそれ?」
「えーっとハニーキャラメル」
「バーカ」
慧くんはアイスを食べると舌を出した。そして私はこつんと頭を叩かれる。
その手の横にはしっかりと握られた私の手。
まるで自分で叩いているみたいな感覚に陥る。それから色々ショッピング。
ショッピングの正しい方法は見るだけ。
そう慧くんが主張するもんだから何も買わなかった。
でも2人でいるとそれだけで幸せだった。
「さ、そろそろ行くかな」
「え?やっぱ私はいいよ。慧くん一人で行っておいでよ」
「何言ってんだよ!!自慢してやりてえの!俺の彼女だーって」
夕日が沈みかけると時計を見て、慧くんが言う。
私はためらいながら一度は行くのを断った。
すると慧くんが私の顔を見て「俺の彼女」って言ってくれた。
そう言ってくれたのは初めてで、私本当に慧くんの彼女なんだなって実感が持てた。
その言葉が嬉しくて私は握ってくれていた手をぎゅっと力を込めて握った。
家庭教師さんとの待ち合わせ場所は駅。すれ違う人々を見ながらこの人かな。
あの人かなと目をキョロキョロさせる。そんな私を見て慧くんは笑う。
「ねぇあの人?」
「いいや」
「じゃああの人?」
「はずれ」
5人くらいそれが続くけど、一度も当たらない。私を口を膨らませた。
すると慧くんは繋いでないほうの手で私の頭をなでてすぐに来るよと言った。
数分後、慧くんが手を挙げて合図をしたので私もその人のほうを見た。
その人は、キャップをかぶり、パーカーを着て、ジーパンをはいて、
リュックを背負った女の人だった。
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