あたしの身体に咲いた無数の花びらは薄くなりつつもまだ残っている。今日、
あたしはあいつに会うことにした。何もしないわけにはいかない。言いなりになるつもりももう
ないもの。央に無理やり聞きだしたあいつの番号。そして未彩(みさ)ちゃんが眠る場所の近く
の公園で会う約束をした。隣には隼人もいる。

あれからすべてを話した。隼人は黙って抱きしめてくれた。
俺のことを思ってくれてありがとうと。あたしたちはもう二人で一人なんだから。あたしは隼人と
手を握り合ってベンチに座っている。いつでもかかってきなさい。もうあんたの言いなりに
なんか絶対にならない。数分後、あいつがやってきた。あの日と同じダボダボの服で。

ぎゅっと握った隼人の手、それを離してあたしはあいつの前に立った。


「・・・よう」
「話があるの。もうあたしあなたの言いなりにはならないわ。隼人ともう別れるなんてしない。
たとえあなたたちがどんな手をつかって隼人を落としいれようとしてもあたしは絶対に守るわ」
「・・・そうか」

「ねえ簡単に絆って切れないものなのよ。あたしは確かに一度は隼人のためを思って別れた。
でもそれが本当に隼人のためにはならなかった。あたしは自分の考えで勝手にそうすれば
隼人が被害にあわないと思ったけど、違ったのよ。二人で考えるべきだった。だからあたしは
もう隼人のそばで二人であなたたちと戦うわ。だってあたしは本当に隼人が好きなんだもの」
「・・・そうか。ならそうすればいい。でもどうしてそこまで人を好きになれるのならあいつの
思い、央の思いに気付いてやれなかったんだ?」


央の思い?どういうこと?あたしと隼人はその言葉で目を合わせた。ベンチに座っていた隼人
も立ち上がり、あたしの隣に来る。さっき離したばかりの手をまたぎゅっと握るとあいつが俯き
ながらぼそっと話し始めた。


「あいつはずっとあんたが好きだったんだよ。でもあんたは見向きもせず、ただ友達だった。
百戦錬磨って自分で言って央はそんな軽いあんただから軽い感じでしか言えなかったんだ。
それなのに、あいつの気持ちも無視であんたは次、辻宮・・・さんを落とすって言った。あいつは
もう限界だったんだ。だからあんな行動に出た」

「・・・嘘でしょ。何言ってるの?央は隼人をキレさせるためにあんなことを・・・」
「それが嘘だったら?自分の気持ちを悟られないためについたあいつなりの嘘だったら?」


嘘?どういうことなの?央があたしに言った言葉も隼人をキレさせるためにした・・・キスも
すべて気持ちがあったってこと?ううん。央があたしを好きっていうこと?あいつの言葉を
聞いて体が震え始めた。違うわよね。央があたしを好きなんてことが嘘でしょ?


「あんたはひどい女だよな。近くでずっと見つめている男の気持ちなんてどうでもよくて自分は
好きな男と幸せになってんだもんな。央は俺の提案を反対したんだ。だけど報われず一人嫌な
役回りでさ。だから俺がもっと悪役になろうって思った」

「嘘よ。そんなの嘘。だったらあたし・・・央に・・・」


思考回路がショートしそう。待って。隼人の手に支えられているけどもう立っていられない。
央があたしを好きならあたしは・・・。ふっと力が抜ける。隼人が手を握っていたから崩れ落ちる
ことはなかった。ねぇ。央、ほんとにあなたあたしを好きなの?

「水島・・・もうこれ以上はやめてくれないか。未彩を苦しめないでくれ」

「辻宮さん・・・すいません。あなたとはもう会わない約束をしたのにそれを破ってしまって。
あなたを苦しめるつもりもなかったんです。でも・・・央があまりにもかわいそうだったんで・・・
俺はあいつと未彩さんを付き合わせてやりたかった・・・。でないとあまりにも央が不憫すぎる。
だから・・・こんなことをしました」

「・・・お前のやったことを許すつもりはない。でも俺もお前に謝らなきゃいけないことがあるん
だ」


もう、やめて。これ以上あたしの感情をかき回さないで。そう思うのに二人は話をやめない。
三人でベンチに座る。隼人はあたしをぎゅっと抱きしめてくれた。安心しろといわんばかりに。
あたしはただ隼人の胸の中に顔をうずめていることしかできなかった。


「水島・・・悪かった。お前を殴ったこと、いつか会ったら謝りたいと。あの時、お前は本当は
未彩(みさ)に手を出したりしてなかったんだよな。助けてくれたんだろ?未彩(みさ)を」
「・・・知ってたんですか?」

「どうして言わなかった?俺がお前を殴っているときにでも自分は襲われかけた未彩(みさ)を
かばったって・・・」
「・・・そんなこと言っても未彩(みさ)は帰ってこないでしょ?俺が殺したようなもんだったんだ。
あの時、襲いかけた男を俺が殴る姿を未彩(みさ)には見せたくなかった。
だから逃げろって・・・その後彼女が事故にあったんだから・・・俺が殺したようなもんです」
「水島・・・」


未彩(みさ)ちゃんはあいつ、いや水島くんに襲われかけたわけじゃない?今、そんなこと
言われたら余計に頭がおかしくなりそう。何が本当なの?それに・・・央・・・あたしの体はどんど
んと震え始める。止めようと思っても無理みたい。


「未彩?大丈夫か?」
「俺のやったことは結果みんなを傷つけるだけでしたね。ほんとすいませんでした。でも最後
に、ほんとにもう最後にお願いがあるんです」


隼人に促され顔を上げるとあたしの前で水島くんが頭を下げている。あたしは隼人に
目で訴えるけど隼人はゆっくりと頷いただけだった。


「央に会ってやってください。あいつと話してあげてください」


彼は一度頭を上げてあたしの目を見てそう言ったあと深々と頭を下げた。央と会うことが
怖い。もし、この水島くんが嘘をついていたら?本当は全部嘘であたしと隼人を別れさせる
ために言ってたら?だったらどうすればいいの?本当に信じてもいいの?だって一度はあたし
たちを別れさせようとしたのよ。戸惑うあたしの姿を見て隼人はあたしの頭をそっと撫で、また
抱きしめてくれた。


「・・・俺の言ってること嘘に聞こえますよね。当然ですよ。あんたと辻宮さんを別れさせようと
した張本人ですからね俺は。俺はもう言いたいことは言いました。後はあなたの意思で決めて
ください」


あたしの態度で彼は気付いたのだろうか。本当に信じてもいいの?あたしは顔を上げ、
水島くんの目をしっかり見た。嘘はついていない。そんな目だった。だからあたしはゆっくりと
頷いた。


「約束するわ。央に会って話しをするって」


彼は黙って会釈を返してくれた。そしてそのまま何も言わず公園から立ち去った。会わなきゃ
いけない。話さなきゃいけない。あたしはその決意を心の中で決めた。