2



今、食事の準備をしているあたしの後ろには男の人がいる。テレビを見てる。

ちなみに彼氏ではない。だってあたしはあの人にさっき会ったんだから。

っていうか朝、目が覚めたらいたんだって。

しかもあたしの未来のだんな様とか言ってるけど、まったくどなたか存じ上げないし・・・。

それにあたしには島原先輩という人がいるの!!

だからだんななんて絶対に信じないんだから。


「出来た?」

「・・・はい」

「いやあ俺腹減ってたんだよな。なんたって喧嘩して飯食えないまま飛ばされたんだから・・・」

「・・・どうかしましたか?」

「いや、早波なんだなって思って」


当たり前でしょ。何を言ってるんだろう。それにしてもこの人これからどうするつもりなんだろう。

うちにいるとは言ったけど一日中この家にいるってことなのかな。でもそんなの嫌。

だって実際はあたしこの人のこと何にも知らないし、ついさっきまでスーツマンとか

勝手に思ってたくらいだしね。


「お、この芸能人この頃からいたんだ」


で当の本人はテレビを見ながら騒いでるし、あ、目玉焼き完成。

これをお皿に盛ってと。そういえば朝ごはんなんて誰かと食べるの久しぶりかもしれないな。


「あ、できましたよ」

「お、さんきゅ」


出来た食事をテーブルに運び向かい合わせに座った。

いつもならトースト一枚をもぐもぐとテレビを見ながら食べるだけなのに、

今日は一人じゃないということで目玉焼きにサラダまで作ってしまった。

だってなんか誰かと食べる食事って楽しいかなって思って。


「いただきます」


おいしいかな?あたしの口には合うんだけど。

あ、でも旦那さんなら毎日あたしのご飯食べてるよね。

じゃ文句は出ないかな。あたしは目の前にいる人が何を言うかじっと見ていた。


「早波の料理だな」


それだけかーい。おいしいとか言ってよ。といいつつも食事を止めようとはしないから

口には合ってるのかな。

それにしても確かにかっこいいよな。でも何であたしこの人と結婚したんだろう。

いつこの人に出会うんだろう。まさか嘘ついてるってことはないよね。もし嘘だったとしたら・・・



〜早波の妄想〜

結局この人が言ってることは全部嘘であたしが背を向けて洗い物をしていると

後ろから襲い掛かってきた。

どこからもってきたか分からないような縄であたしは縛りつけられた。


「・・・へっへっへっ簡単にだまされるほうが悪いんだぜ。お嬢ちゃん」

「そ、そんな・・・これからあたしをどうするつもり?」

「とりあえずまずはいただくでしょう」

〜終わり〜



「きゃー。やっぱり軽く人を信じちゃいけないんだ。やっぱりあたしは食べられちゃうんだ。
どうしようどうしよう」

「早波、早波・・・」

「こういうときはナムアミダブツ。いやでもあたしあんまり知らない。でも唱えるしかないな・・・
なむあみ・・・なむあみ・・・」

「おい!!」

「きゃー!!助けてください!!何でもしますから!!なむあみー!」


その後叫びながら家の中を駆け回ったあたしは秀哉さん(と呼んでおこう)に

無理やり止められて冷静に戻った。


「すいません・・・」

「あのな、俺はそんなに信用がないか?」

「ごめんなさい」

「いいよ。ゆっくり知ってくれたらいいからさ」


そういってあたしの頭をそっと撫でた。優しい笑顔。確かに目を奪われてしまう。

一緒にいればもっとこの人のことを好きになれるのかな。


「あ、あの・・・あたしもうそろそろ大学に行かないといけないんですけど・・・」

「あ、そっか。留守番なら任せろ。なんなら家事もやっとこうか。洗濯とか」

「いいんですか。じゃあ・・・」


そう言い掛けてあたしは言葉をつぐんだ。ちょっと待って。

洗濯?じょ、冗談じゃない。そんなの無理。


「丁重にお断りします」

「そ?残念」


そう言っていたずらっ子のように笑う秀哉さん。

たった数時間前に出会ったっていうのになんとなく惹かれるのは何でだろう。

おっと、何を思ったんだあたし。あたしには憧れの島原先輩がいるんだから。


「ずっと家にいるんですか?」

「え?あ、まあブラブラしてみるよ。せっかくだし5年前を満喫しないとな」

「・・・プラス思考なんですね」

「まあ足掻いても仕方ないしな。だから早波も俺のことは気にせず大学を満喫しておいで。
夜は俺が作ってやるよ」


あたしは話しながら用意を済ませた。やっぱりそういうところが大人だな。

あたしがもし同じ立場になったら泣き喚いて終わりだろうし。

それに仮にそうなったとしたらもうあたしはこの人と結婚した後か。絶対無理だ。


「あ、すいません」

「あのさ、敬語やめてくれないか。なんか変な感じがするんだ」

「でもいきなりそれは無理ですよ」

「じゃそれもゆっくりだな」


すごく優しく笑うんだな。なんだかドキドキする。また惑わされてしまったよ。

あたしはわかりましたと言って家を出た。不思議だけど今、家に帰ると彼がいるんだよね。

何だかそれが嬉しかった。

今までは電気をつけるまで真っ暗だった家に人が待っているんだもん。

でもほんとにほんと?夢じゃないよね。突然そんなことを思うと不安になってきた。


「・・・いるよね」


あたしは急いで自分の家に戻った。さっきのは夢でまた家に帰ったら誰もいなくって。

明かりもついてなくて・・・一人ぼっちに戻ったりする・・・


ガチャ


「あれ?何か忘れ物・・・か?」


秀哉さんの言葉を聞き終わる前にあたしは彼に抱き着いていた。ずっと不安だったの。

大学に入って親元を離れてからずっと一人。大学は楽しいしサークルだってすごく合ってるよ。

だけど家に帰って一人はずっと寂しかった。だから秀哉さんがいてくれて本当は嬉しかった。

これからもずっと傍にいてほしい。あたしはそう思った。