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あたしの隣にいる人は誰?

スーツを着て長身で目がすごく綺麗で・・・って何言ってるんだあたし。

それにしてもここはあたしの家だよね?

であたしは今、ひとり暮らし。少なくとも彼氏なし。

じゃあこのあたしの隣で寝息を立てている人は誰なの???


「ん」

「・・・あ、あの・・・」

「ん?」


ちょっと待って。

昨日は確か普通に学校行ってサークル行って

そのまま飲みに突入してベラベラに飲んで

憧れの島原先輩によりかかってほわほわとした気分で家に着いた・・・んだよね?

昨日は誰もいなかった。仮にいても島原先輩ならなんとなくつじつまが合うよ。

でも、でも明らかに知らない人・・・もしかしてあたし部屋間違えた?

そうだよ。きっと酔っ払ってて部屋を間違えたんだよ。

あたしは立ち上がろうとして辺りを見渡した。

あれ?どうみてもここはあたしの部屋。家具も小物もあたしのもの。じゃあこの人は・・・


「ちかーん!!」

「・・・ん?」

「痴漢。痴漢だ。この部屋に痴漢がいる。ひゃ、百当番しなきゃ」

「・・・早波?」

「・・・ど、どうしてあたしの名前・・・調べたんだ?」

「早波!!」


あたしが叫ぶのもおかまいなしにスーツマンが抱きついてくる。

ほぎゃー!誰か助けて!!

今まで女の子以外に抱きつかれたことなんてないのにー!!

あたしはそのスーツマンを思いっきり突き飛ばした。

何この人?痴漢以上かも。もしかしてナイフとか持ってる?

どうしよう。突き飛ばしたからあたし殺される?あーお母さん、お父さん助けて!!


「ってえ。早波(さわ)何すんだよ」

「・・・誰?」

「おい、何寝ぼけたこと言ってんだよ」

「ど、どなたですか?」

「本気で言ってんのか?そういや早波少し顔が違うような・・・ん?!」


あたしのことをジーっとなめるように見回したスーツマンはカレンダーを見て大声を上げた。

このカレンダーお気に入りなんだよね。

キャラクターの模様が可愛くて一目ぼれして買ったんだ。


「・・・今何年?」

「はい?」

「だから今何年だ?」

「・・・2005年ですけど」

「・・・それ本当か?」

「はい」

「・・・嘘だろう!!俺はじゃあ5年前に来たってことか?!」


はい?話の意図がもう一つ理解できないんですけど・・・。

スーツマンは頭を抱えてやたらうなってる。

もうこの人いったい誰ですか?しかも5年前とか意味の分からないことを言ってるし。

それよか早く追い出さないと。前歴もあるしまた何かされたら大変だもんね。


「あの・・・お取り込み中悪いんですが・・・出て行っていただけないですか?」

「あんのバカ。とんでもないとこに送りこみやがって。大体俺は過去に戻せとは言ったけど
1時間前って言ったはずだぞ」

「あの・・・」

「何?」


そんな剣幕で怒らないでよ。あたしのほうが怒りたい気分なんだよ。

目が合った。かなり怖いんですけど・・・。

やっぱりあたし殺されちゃうのかな。

明日の新聞に『女子大生自宅で何者かに殺害される』ってどでかく見出しに載っちゃうのかな。

あースーツマンが近づいてきた。どんな刃物?出刃包丁とか?

カッターナイフだったら痛み残りそうだな。


「・・・早波」

「あの・・・お願いですから顔に傷はつけないでください。
こんな顔ですが一応親が生んでくれた顔ですので・・・」

「・・・・?」


あぁ何も言わないでどんどん接近してくるよ。

こんなことなら昨日のうちにやりたいこと全部やっておけばよかった。

借りたDVDまだ全部見れてないし、エルポーネのクリームパスタ食べたかったし、

それからそれから・・・島原先輩!

こんなことになるなら告白しておけばよかったよー。

最後がこんなわけのわからないスーツマンに殺されて自宅で看取られずに死ぬなんてー

あたし、前世に何か悪いことでもしたのー!!力強く目をつぶる。

お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。早波は二人の子供で幸せでした。


「・・・ん?」

「ほんとに早波なんだな」


殺されると思って覚悟を決めたのに何もしてこない。

恐る恐る目を開けるとスーツマンがあたしの顔を見ながら髪の毛に触れている。

助かったのかな。また目が合った。優しそうに笑ってる。

少しかっこいいなって思ったけど、でもでもあたし本当にこの人知らないよ。


「あ、あの・・・」

「そっか。5年前に来たんだから俺のことなんて知らないよな」

「・・・はぁ」

「俺は萩野秀哉。27歳。どうやらタイムスリップしてここに来たみたいだ」

「・・・タイムスリップ?」

「そう。俺は過去へ遡る研究をしててさ。
まぁ研究に研究を重ねてようやくそれが形になりつつあるって感じだったんだよな。
で試しに俺がその実験台になったら5年前に飛んじまったってわけ」


・・・あたしはまだ夢を見てるのでしょうか。

それとも新手の詐欺?もしくは痴漢?もしくはストーカー?!

これ以上この人と話してたら巻き込まれちゃうかも。

あたしはとにかくこの至近距離をなんとしても脱出するためにふと目についたものを手に取り、

その人の前で振りまわした。


「こ、これ以上意味不明なことばっかり言ってたら、け、警察呼びますよ」

「早波?」


うきゃー。これ何?あたしが手にしてるものはうちわ。

あーこんなんじゃ勝てるわけない。

あーもう何であたしこんなときのために護身用バットとか用意してなかったの?


「・・・ひどいこと言うよな。俺はお前の未来のだんな様だぜ」

「・・・え?えー!!」


ダメだ。ついついこの人の言葉に耳を傾けてしまった。

さっきからちんぷんかんぷんなことばかり言ってるのに信じちゃダメ。

きっと頭がおかしいんだよ。だってあたしまだ結婚してないし、名前聞いても知らない人だし。


「お、あったあった。これ見てみろよ」


スーツマンがごそごそ自分の胸ポケットをあさりながら

何かを見つけたようにあたしの目の前に何か差し出してくる。

ゆっくりとそれに顔を近づけると一枚の写真。

スーツマンと隣には・・・

少し大人っぽくなったけど100人に聞いたら確実に98人はあたしだって

答える人間がスーツマンに腕を絡めて微笑んでる。しかも指輪もしてるし!!


「分かった?」

「・・・これは何かの間違いです。あたしはあなたなんて知りませんし、結婚した覚えもありませ
ん」

「・・・だからまだ出会ってないんだって。それに俺らが結婚するのは5年後だしな」

「しませんー!!それにあたしす、好きな人だっているんです」

「へえ」


な、なんか顔色が変わってませんか?特に目。めちゃくちゃ怖いよー。

それにしてもさっきの写真本当にあたしにそっくりだった。でも空似ってことだってあるし・・・


「・・・早波って左の足の太もものあたりにあざがあるよな」

「な、何言ってるんですか?」

「あれ?何でそんなこと知ってるかって?聞きたい?」

「い、いりません」

「ま、観念して俺の未来の花嫁だってことを認めなさい」

「い、嫌です」

「へえ。じゃあ何でか教えてやろうか?それは・・・」

「あー!!!」


そんなこと言われなくたってあたしだって一応分かる。

でも嫌。こんな知らない人とそんな・・・絶対に認めちゃだめだよ早波。

こんなスーツマンの餌食になったらおしまいだよ。食べられちゃって終わりなんだから。


「聞きたくないなら俺のいうことを認めろ」

「何でそんなにえらそうなんですか?」

「お前が認めないからだろ。何なら力づくで認めさせてやろうか?」

「嫌だー!!島原先輩!!」

「島原?!やめた。気分がのらねえ。でも認めるまで俺はここを出ていかねえからな。
どうせどこも行くあてがねえしな」


はぁー食べられちゃうかと思った。だってこの人あたしのこと押し倒そうとしたんだよ。

すごい力で適わないし。相変わらず目は怖いし・・・。それより今なんて言いました?!

ここを出て行かない?!そんなの無理に決まってる。

さっさと警察に電話して引き取ってもらわないと・・バレないように携帯を手にする。


「へえ。携帯も5年前はこんなんだったんだな」

「な、なな」

「でそれがお前の好きなやつか」


しまった。島原先輩の待ちうけにしたままだったんだ。

じゃなくて後ろから覗かれてるし。電話できない。どうしよう。


「どこに電話する気だったんだ?」

「あ、あの・・・」

「警察だったら兄貴のふりするけど?いいじゃねえかよ。どうせ俺ら夫婦なんだし」

「違いますってば!!」

「じゃあ約束しようぜ。俺たちは今日から兄と妹だ。兄は妹に手を出さないだろ?

まぁ一部を除いてだけどな。いいだろ?それで」

「兄と妹・・・?」


おにいちゃんなら・・・大丈夫かな?いやいや何言ってるんだあたし。

でも、この人行くあてがないんだよね。それにずっといるわけじゃないよね。

タイムスリップがどうのこうの言ってたし・・・。少しの間だけ・・・。

こくんとあたしは頷いた。