はあ。なんてあたしはついてないんだろう。
今日は久しぶりにあいつの家でご飯でも作って帰りを待っててやるかって思って
スーパーで買い物をしてあいつの家に行ったら鍵が開いていた。玄関には女物の靴。
声も聞こえてくる。そのまま入っていこうと思うにも足がすくんで動けない。
その場に持っていた買い物袋を落として立ち去る事しかできなかった。
あたしの意気地なし。
中に入ってあいつを問い詰めて一発ビンタでもくらわしてやればよかった。
そしたら少しは気が晴れただろうに。
それなのにこんな公園でブランコこぐしかできないなんてあたしは子供みたい。
いっぱいいっぱい涙が出てくる。
ひとりぼっちになっちゃった。もうあたしには誰もいない。
親や友達っていうのじゃなくてあたしの中を占める人がいなくなったんだもん。
このままずっとここにいたらあいつのすべてを忘れ去ることができないかな。
そしたらすごく楽になれるのにな。
こんな夜に一人でブランコをこいであたしはすごくかわいそうな子だ。
「何やってんだよ」
「・・・な、なんでいるの?」
キーキーと音を立てるブランコの音だけじゃなくてハーハーという息遣いが聞こえた。
その音の先を見るとあいつが息を切らせてひざこぞうに手をついている。
何してるの?もうあたしのことなんて放っといてよ。
「探しに来たに決まってるだろう」
「あたしのことなんて放っといてよ。あの人がいるでしょ」
「何を勘違いしたのか知らないけど、お前隣の家のドア開けただろう」
「・・・え?」
「お隣さんがビックリして俺の家に訪ねてきたんだよ。
玄関に買い物袋が落ちててその横にこれが落ちてたんだってさ」
そうやってあいつが手にしてるものはあたしとあいつの名前が入ったプレートについた合鍵。
あ、あたしあの時落としたんだ。あいつとあたしの距離が近くなる。
あいつがあたしに近寄ってきたんだ。どうしよう。すごく格好悪いよねあたし。
だって間違いにもほどがある間違いだもん。逃げるか。よし、ここは逃げよう。
勢いよくブランコから降りて走ろうとするとあいつの腕に捕まり、
即座に胸の中に押し込められる。
「バカやろう。心配かけやがって」
「だって・・・」
「だってじゃねえだろ。俺をひとりぼっちにする気か?」
「え?」
「お前がいないと俺はひとりぼっちになるんだよ。
俺の中をほとんど占めてるのがお前だからな」
嘘。あたしと同じこと思っててくれたの?
あたしはそれがうれしくてあいつの背中にぎゅっと手を回した。
もうあたしたちはひとりぼっちじゃないよねって言いながら。
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