シャボン玉

〜二人の初デート〜

前編



今日は初めてのデート。あたしはすごくドキドキしてる。

だって絶対的片思いだって思ってた栄。

いや芯悟くんと両思いになれたんだもん。

昨日の夜からずっと洋服とにらめっこしてるのに朝になってもまだ決まらない。

スカートがいいのかな。やっぱりジーパンかな。

そんなことを考えてると待ち合わせの時間までもうあと1時間しかない。

あたしはもういいやとフレアスカートを手に取った。

スカートなんて制服以外ほんとに履かないから似合わなかったらどうしよう。

芯悟くんに似合わないって言われたらどうしよう。

そんなことを思いながら履いてみる。

やっぱり似合わない。

でも仕方ないとあたしはそれを履いていくことにした。

待ち合わせ場所に行くともう芯悟くんが着いてる。

どうしよう。待たせちゃったのかな。

怒ってたらどうしよう。あたしは恐る恐る芯悟くんに近づいた。


「・・・遅くなってごめんね。す、スカート似合わないでしょ?」

「俺もさっき来たところだから。似合ってる。かわいいよ」

「ほんとに?」

「ほんとだって。お前はほんとにうたぐり深いな」


そう言って芯悟くんが笑顔で頭を撫でてくれた。この手好きだな。

抱きしめられたときにも思ったけど芯悟くんって細いのにほんとに男の子って感じがする。

あたしが小さすぎるのかな。あたしは頭に乗せられた手を取って握る。

彼と手をつないでるとほんとに幸せだなって思えるんだ。


「今から映画見るんだよな?でも少し時間早いし、なんか食べるか?」

「うん。食べる食べる」

「何食べる?」


朝ごはん抜いてたからお腹すいてたんだ。でも何食べよう?

ファーストフードはソースとか垂れちゃったら困るし、

らーめんは汁こぼしちゃったら大変でしょ? 

あ、パスタがいいかも。でもパスタもソースがこぼれちゃったら大変だし、

もしちゃんとフォークに巻けなかったら格好悪いし。


「おい、おい伊咲」

「え?」

「お前今夢の世界に行ってたぞ」

「そ、そんなことない。何食べるか考えただけだもん」

「ほんとか?で何食べたいかきまった?」


芯悟くんが笑顔で聞いてくる。

彼の笑顔をあたしはこんなに間近で独り占めできるんだ。

もう話し方すら変わってくる。もっともっとかわいくなれたらいいのにな。

あ、食べるもの考えなくちゃ。でも何がいいんだろ。何がいいかな。


「し、芯悟くんの食べたいものがいいな」

「俺は伊咲の食べたいものが食べたいけど」

「え?」


我ながらうまく考えたと思ったのに。そう来たか。どうしよう。

だってどれもメリットとデメリットがあるでしょ?

初デートなのに格好悪いところなんて見せたくないし。どうしよう。
  
あたしは困ったときの芯悟くん頼み。

じーっと彼の顔を見た。

なんでかこうするとあたしの思いが芯悟くんに伝わるんだよね。


「決まらないならじゃああそこでも行くか」


ほらね。芯悟くんはいつだって分かってくれる。

でもあそこって牛丼屋だよ。

芯悟くん、あたし牛丼はちょっと。

なんて思ってるのに芯悟くんはさっさと歩き出す。

手をつないでいるからあたしも芯悟くんにつられちゃう。

あーこんなことならメリット、デメリット考えなく何か食べたいもの言えばよかったな。


「何食べるか決めたか?」

「え?牛丼じゃないの?」

「お前牛丼が食べたいの?」

「だって・・・あそこってさっき」

「俺が言ったのはここ。
まあ伊咲がどうしても牛丼食べたいなら俺はそれでもいいけど」


芯悟くんが指差してたのは牛丼屋の隣のレストラン。

ここなら何でもあるかなって考えてくれたらしい。

あはは。まったくあたしって勘違いがひどいな。

芯悟くんにううんって首を振ったら了解と中に入っていった。

窓際の席に向かい合わせに座る。ちょっと向かい合わせって恥ずかしいな。

だって目の前に芯悟くんがいるんだもん。

今までは隣とかだったけど食べるときにこぼしたりしないようにしなきゃいけないな。

渡されたメニューに目を通しながらなるべく食べやすいものを選ぶ。

あ、これなら大丈夫かも。


「決めた?」

「うん。芯悟くんは?」

「俺も決めたかな」

「何にしたの?」

「お前は?」

「芯悟くんは?」

「じゃあ一緒に言うか。せいの・・・」

『オムライス』


あたしと芯悟くんの声が重なった。お互い顔を見合わせて笑う。

なんだ。同じものだったんだ。

ほんと芯悟くんの食べたいものが食べれちゃった。

嬉しいな。笑顔が止まらない。

昔はすごく泣いたこともあったのに、今はあたしの彼氏なんだもんね。

注文した料理が運ばれてくる。卵がふわふわでおいしそう。

芯悟くんと二人スプーンを手にした。


『いただきます』

「また一緒になったな」

「ほんとだね。おいしそう」


芯悟くんの優しい目を今日はたくさん見れる。

オムライスを口にすると口の中で卵が溶ける。

おいしい。お母さんにはごめんなさいだけど

こんなにおいしいオムライス食べたのは初めてかもしれない。

あ、芯悟くんと食べるから余計においしく感じるのかな。

これからもっとおいしいもの二人でいっぱい食べれたらいいな。