それから彼とはあまり連絡を取らなかった。
向こうがメール好きじゃないっていうのも知ってたから。でもクリスマスイヴには
"メリークリスマス"
とメールが来て、クリスマスには電話がかかってきた。
あたしは家族で夜景を見に来ていたという最大のミスをおかしていたけど。
「今から会える?」
「え?あ、ちょっと無理・・・ごめん」
「いいよいいよ」
自分の行動に落胆した。
なんであたしはこんな日に限って家族と夜景なんか見に来てるの。
結局その後はあんまり気分がすぐれなかった。
でもクリスマスに誘ってくれるっていうことはやっぱり期待してもいいのかな。
年が明けてあたしを合コンに誘ってくれた女の子が
駿くんに別の男の子を紹介してもらうというのでついてきてほしいと言ってきた。
あたしはただ駿くんに会いたいがために快諾する。
しかし、これが最大の後悔への幕開けだったなんてその時のあたしには
気付くこともなかった。
結局4人で会うことになったのはあたしも友達も予定がある日で
1時間だけということになった。
友達はかなり緊張しているみたい。あたしは関係ないからのほほんと過ごしていた。
敏くんが友達を連れてやってきた。久しぶりに会うので少し照れくさい。
その友達は少しがっちりしてる感じで駿くんよりも少し背が低い感じだった。
原田幸二。まさかこの人があたしに深く関わってくるなんてその時は思わなかった。
近くの喫茶店に入る。
友達もあたしもお互いに人を待たせているからと何も食べずにいたけど
駿くんと原田くんはお昼を食べていた。
「何も食べないのか?」
「うん。友達待たせてるしね」
「じゃあケーキくらい」
と言ってチーズケーキを二つ注文した。
人見知りの友達がモジモジしている。
もう、仕方ないなとあたしは頑張ってまた場を盛り上げた。
でも駿くんにこれでも読んどけと漫画を渡されて黙らされてしまった。
あ、そっか。あたし主役じゃないもんね。どうやら友達は原田くんのことを気に入ってるみたい。
このままうまくいくといいな。原田くんも友達のことまんざらでもなさそうだし。
1時間があっという間に過ぎる。
急いでケーキを食べた。また駿くんがおごってくれた。
あたしと友達はそれぞれ別の友達を待たせていたのでそこに向かうため駿くんたちと別れる。
友達がどうしても原田くんの携帯を聞きたいというので呼び止めた。
友達と交換したあと原田くんに自分のも聞いとくかといわれたのであたしも番号を交換した。
"さっきはごめんね。友達も緊張してたみたいだから。普段はあんな子じゃないんだよ"
駿くんたちと別れて友達と合流してすぐに原田くんにメールを送った。
友達があんな子だって思われたらかわいそうだもんね。ってことでフォローしておこう。
するとすぐに返事がきた。気にしてないよって。駿くんと違ってすぐに返ってくるメール。
よかったよかった。友達とうまくいってくれればいいな。
あれから原田くんとはほとんどずっとメールをしていた。毎日朝から晩まで。
すると意外にも音楽の趣味があったので何だかすごく親しみを覚えていた。
友達は頑張ってアプローチしているみたい。うまくいってるんだと思ってた。
そのメールが来るまでは・・・。
"告白したけど振られた。気になってる人がいるんだって"
友達から来たメール。急いであたしは原田くんにメールした。
その後ろに書かれていた言葉はあたしの名前だったから。
彼はあたしを気に入ってくれていると言ってくれた。正直、あたしは悪い女だ。
友達が振られたのに自分が気に入られていることは嬉しかった。
でも駿くん・・・駿くんとはほとんど連絡を取っていない。
それにクリスマスの事も気になる。思い切ってクリスマスに誘ってくれたことを聞いてみた。
返ってきた返事はこうだった。
"遊びたかっただけ"
いい。十分。それでいい。駿くんはあたしのことなんて何も思っていなかったんだ。
ただ遊びたいから、だから誘った。ただそれだけのこと。
そのメールであたしはただ『彼氏』がほしいという飢えた女になりさがり、
友達のことも駿くんのことも何にも考えることなく
自分がOKすればすぐに手に入る『彼氏』をそのとき・・・手にした。これが最大の後悔。
原田くんと付き合い始めた。駿くんにはメールを送った。
"駿くんのことが好きだったけど、彼と付き合います!"
"焦らずにゆっくりと!"
そう返事が返ってきた。嬉しかった。
もうあたしには『彼氏』がいるんだ。嬉しくて嬉しくて舞い上がりそうになった。
原田くんと付き合い始めて初めてのデート。楽しかった。
カラオケでお互いの好きなアーティストの曲を歌ってくれた。
うまくってますますそのアーティストが好きになれた。
一緒にいて嬉しくて楽しくて何も考えていなかった。
"友達が彼女ほしいらしいんだけど、誰か紹介してくれる?"
デートして数日が過ぎると原田くんからそんなメールがきたから友達を紹介することになった。
その日、原田くんが連れてきた子に友達はあまり関心を持たなかった。
あたしもあんまり第一印象はよくなかったけれど話していくうちに仲良くなってきた。
あたしの友達が帰ったあともあたし達3人はご飯を食べに行って
カラオケでオールして夜を明かした。
それが彼に会った最後だった。
数日後、学校の友達とカラオケに行っていたときに一通のメールが届いた。
"別れよう"
原田くんからのメール。何があったの?あたしが何かした?
震えが止まらなくなって家に帰ってすぐに電話をした。
いろいろ話し合ったけど結局彼の意見が強くあたしを友達以上に見られないと言ってきた。
泣いた。泣いたけどあたしの涙は『彼氏』という存在を失って悲しい涙だった。
その日、あたしは駿くんに電話した。
「どうした?」
久しぶりに聞く彼の声。あたしはすべてを話した。彼は黙って聞いてくれた。
「男はあいつだけじゃないんだし、これからいろんな人を見ていろんな人と話して
それであいつはそれでもダメだったときの予備にでもしてたらいい。
男はいっぱいいるんだし、もっといろんな人を見たほうがいい」
それが彼と話した最後の電話。
原田くんと別れてからやっぱり気まずさもあって誰とも連絡を取り合うこともなく、
保存メールもアドレスもその夏には消した。
それからのあたしは少し人見知りだったのも忘れてメル友ではなく、
学校の友達や新しく始めたバイトの人たちといっぱい話すようになった。
恋もした。でもその恋はやっぱり恋に恋する恋で
あたしはまだちゃんとした恋をすることができなかった。
やっぱり駿くんが一番。
あの時、原田くんに会わなければよかった。付き合ったりなんてしなきゃよかった。
自業自得なのに、後悔してる。でもそれはあたしの意志の弱さ。
どんなことがあってももっと時間を掛けてでも駿くんを好きでいればよかった。
正直、駿くんを越える相手がこれから現れるか不安。
だって今のあたしはもう恋に恋することもないから。
でも次は慎重にゆっくり、ゆっくり時間を掛けて人を好きになって付き合えたらって思う。
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