The first part



時が過ぎるごとに大きくなっていく気持ちがある。

それはもう決して叶えられるものではないし、続きがあるわけでもない。

だけど、一生消えないって思う。

あたしはずっと恋っていうものは自分だけが楽しければいいんだって思ってた。つまり片思い。

片思いしているときは自分がすごくかわいくなれる。

あの人に会いたい。会えたらそれだけで一日がバラ色の気分になれる。

話ができたらいいな。そう思って話すだけで幸せになれた。

でも、それが違うんだって、それはただ恋に恋してるんだって教えられたことがあった。

12月のある日、友達の合コンに誘われてその場しのぎで付き合った。

その頃のあたしは合コンばっか行ってたし軽いノリで男の子と遊んだりしてた。

恋をすることはなかったけど。


その日の合コンは最悪だった。カラオケに行くも女も男もやる気なし。

あまりに腹が立ったので先頭きってマイクを持った。少し流れが変わった。

居酒屋に行ってみんながお酒を飲みだして少し楽しくなってきた。

あたしもかなり酔ってて左隣の男の子に寄りかかってた。

あたしの右隣の子もかなり酔っててあたしのことかまってくれて、けっこう話も盛り上がった。

少しだけ嬉しくなって気がつくとその子が気になってた。

岡部駿和くん。背が高くて男っぽい感じ。

でも彼女がいた。なんだ。ただのサクラか。って思ってたらもうすぐ別れる寸前だって言った。

携帯番号を交換した。家に帰るとすぐにメールが来た。

少しは頑張ってみてもいいのかもしれない。

何日かしてあたしは頑張ってみることにした。


"二人で遊びたいな"


普段のあたしじゃ絶対無理。それでも頑張ってみた。

彼はそんなにメールが好きじゃなくて返事は遅かった。

それでも"いいよ"って返事が来たときは嬉しくて飛び上がりそうだった。

今までしてきた告白よりもドキドキしたと思う。少しは期待してもいいのかな。

会うのは2週間目の日曜日。日にちが近づくと一通のメールが届いた。


"デートしよっか?"


意味を理解するのに時間がかかったけどとりあえずデートということだろう。

特別な意味がこもってるってこと。

メールを見て胸が熱くなった。

どこに行くかっていう話になって彼は季節もあってかアイススケートを提案してきた。

滑れなかったけど、あたしはどこでもよかったから快諾した。

何を着ていけばいいのか迷う。スカート履いて行きたいけどスケートだし。

結局ジーパンを履いていく事にした。

前日ガラにもなくクッキーを作った。なんかすごく乙女だと実感しつつも明日が待ち遠しい。


当日。天気はいい。

友達の分も作ったクッキーを手渡すために友達の家に寄って待ち合わせ場所に向かう。

少し時間に遅れたので彼から電話がかかってきた。


「今どこ」

「ごめん。すぐ行く」


急いで待ち合わせ場所に行くと彼が待っていた。

待たせてごめんと言って歩き出す。ちょうど献血がやっていたので血液型を聞きあった。


「何型?」

「O型。自分は?」

「あたしはA型だよ」


また一つ彼のことを知ることができた。嬉しかった。

もっともっと彼のことが知りたくなって仕方ない。

駅に向かって切符を買う。そして電車に乗り込んだ。

電車の中は満員。ふと見ると一つだけ席があいていた。


「座っていいよ」

「でも・・・」

「いいって俺は男だから」


そう言ってあたしを座らせてくれた。リードしてくれる彼がたのもしい。

あたしの前に彼が立つ。いつもなら誰かが自分の前に立つのは嫌だけど、

今日だけは何だか守られているようなそんな気がしてならなかった。


スケート場に着いた。入場券を買おうとしたら彼があたしの前に1枚の入場券を差し出す。


「はい。もう買ったから」

「え?でも・・・」

「もう買ったからこれで」


あたしがお金を出す前に彼が入場券を買ってくれていた。

中に入って靴を借りる。お金を払うって言っても聞いてくれない。

もしかしてこれがデートってことだったのかな。

男としてのプライドみたいなものを持つってことで・・・。


「じゃあ靴を履き替えたらリンクで待ち合わせな」

「うん」


更衣室に入って靴を履き替える。みんな誰かといるのにここでは一人。

ちゃんと靴が履けるかも心配だったけど、とりあえず履いてリンクに向かう。

やっぱり彼はあたしより早くリンクについていた。


「ごめんね。待たせて」

「いいよ」


あたしは氷の上で立っているのもやっと。

彼は慣れているのかちゃんと滑れるみたいだけどこんなのただの足手まといの何者でもない。


「あたしはこの辺りで滑ってるから滑ってきていいよ」

「いいの?じゃちょっと行ってくる」


彼も久しぶりのスケートで腕がなるのだろう。

ゆっくりとリンクの中心に滑っていった。さてどうしよう。

なんとか壁づたいに立つことは出来たけど・・・

見ればあたしみたいにへっぴり腰なのは誰もいない。

みんなよく滑れるよなと感心しつつ見よう見まねで滑ってみる。

なんとか少しは滑れるようになったかな。


「どう?」

「少しは滑れるようになった・・・とは思うんだけど」


しばらくすると駿くんがあたしのところに来てくれた。

お恥ずかしい限りです。すると駿くんはくすっと笑ってあたしに手を差し出した。


「冒険してみない?」


彼の手を取ると彼はそのまま滑りだす。すごい。さっきまで滑れなかったのに滑れてる。

景色がくるくる変わる。メリーゴーラウンドのように。

それなのにあたしってばバランスを崩してしまって倒れそうになる。

彼がとっさにあたしの前に来てくれて両手を握り合った。もう少しで抱きつく寸前で倒れた。


「ごめん」


ドキドキして胸が張り裂けるかと思った。

手を握っただけでもドキドキしたのに。


「靴紐が緩いからダメなんじゃ」

「え?」


一人のおじいさんが私たちのところにやってきた。

どうやらそのおじいさんはあたしがちゃんと滑れないのは靴紐が緩いからだという。

そのおじいさんと駿くんと一緒にリンクの外のベンチに座る。

あたしは指摘された靴紐を結びなおそうとした。

すると駿くんはあたしの前にしゃがみこんで靴紐を結んでくれた。

きつく、きつく解けないように。


「あ、ありがとう」

「いいよ」


滑りすぎて足が痛い。本当はこのまま休んでいたいけど頑張って滑ることにした。

駿くんはおじいさんにスピンのやり方を教えてもらっていた。

あたしはまた壁づたいにゆっくりと練習する。少しはうまくなって帰りたいもん。

結局お昼ごはんも食べずに一日中あたしたちはスケートをやっていた。


 帰り際、あたしはずっと疑問に思っていたことを聞いた。それは彼の学校。

合コンのときに友達が彼は一つ上だと言ってた。


「どこの学校なの?」

「え?いいじゃん。そんなこと」

「でも年上って言ってたから・・・」

「え?!」


どうやらそれは嘘らしく、本当は彼は同い年だということが判明した。

なんだ。しかも誕生日があたしと約1年くらい違う。

あたしのほうが誕生日的にお姉ちゃんだった。


「何食べたい?」

「パスタがいい」

「んーラーメンでいい?」


パスタ好きのあたし的にはパスタがよかったけど、彼がラーメンがいいならしょうがない。

別にラーメン嫌いじゃないしね。そしていつも彼が行くラーメン屋に向かった。

あたしはずっと緊張していてラーメンも喉を通らない状態。それでも一生懸命食べた。

そして彼に友達から電話があってシンデレラの魔法は解けた。

それでも幸せだと思った。好きな人と初めてデートしたから。

ちゃんと好きな人とデートしたのは初めてだった。

彼氏はいたけど好きで付き合ったわけじゃないから。

そして作ったクッキーは渡す事も忘れていた。


次の日、あたしは緊張しすぎてか熱が出て吐き気が止まらなかった。

昨日の出来事を知ってる駿くんの友達からメールが来たので

今の状況を伝えるとすぐに駿くんから電話がかかってきた。


「・・・大丈夫か?」

「うん。もう大丈夫だよ」

「無理するなよ」

「うん。ありがとう」


彼の声がすごく慌てていて心配してくれているんだってわかって嬉しくて仕方なかった。

そのあと来たメール。あたしはそのメールをいつまでも消すことが出来なかった。


"ほんとに心配したんだぞ。もう絶対に無理するなよ"


あたしのこと怒ってくれた人は初めてかもしれない。

どんどんと彼のことが好きになる気持ちが加速度をつけていく。

でも、あたしはそれすら自分の欲で壊してしまった。

あの日、自分の選択を間違えることがなかったなら今でももしかすると

君と繋がっていられたのかもしれないね。

そうあの選択すらあたしが間違わなければ・・・。