さてどうしよう。今あたし岸上憂奈は最大の選択を迫られていた。
原因はさっき5分前にさかのぼる。あたしには全く持って恋愛感情のない男友達がいる。
彼は空知青(ハル)といい出会いは4年前。
その当時はまだあたしは高校生で友達の友達にメル友として紹介された。
年は2つ上で最初は軽い気持ちでメールをしてたけど
話や音楽の趣味もあって気付けば4年の月日が流れていた。
その流れがなんとなく変わり始めたのは青に会うようになってから。
趣味が高じて映画を一緒に見に行ったりするようになり、
向こうの気持ちがなんとなく変わり始めたらしい。
簡単に言えばあたしに恋愛感情を持つようになったとか。
おいおい。4年も友達でいたのにも関わらず会った途端に恋愛感情ですか。
正直あたしにはそんなものはまったくない。
だってもう友達としてしか見れないしね。
それに彼は少しばかり変わっている。あれはいつの事だったかな・・・。
「頼む!本当に頼む!」
「嫌」
「もう俺はだめなんだ。だから一生のお願いだ」
彼と会うようになって何度目かの日、いきなりあってすぐに青にお願いをされた。
机の上には大量の新聞。何これ。なんて思っていると青は新聞配達員をしていたのだ。
そして、この大量の新聞をあたしに配れという。
何を言っているのだろうと思うとどうやら自分には新聞配達の自信がないと言って
頭を抱え込んでいる。
新聞配達に自信も何もいらないだろうが。青は人よりも自信喪失感が強い。
そうなりだしたら大変で自虐行為を始めてしまう。
だからと言ってど素人のあたしに新聞配達をさせるか?
まあそれは無理なので会社に熱があるので
今日は無理だと大量の新聞を返却してコトなきを得たけどそのときはさすがにあたしも
もうかかわりをなくそうかと思った。
でも情ってすごい怖いものでいざそう考えてもこんなに話の合う友達を
なくすのはもったいないと思ってやめた。
「それにしても・・・こんなの絶対に嫌だしな」
あたしは青から来たメールをベッドに転がりながらじっと見ていた。
今まで映画や居酒屋には行ったけどそれ以外の場所は避けていた。
カラオケは青が嫌いだからね。でも今日のメールはその場所以外を指定してきている。
"水族館に行こう"
水族館?こんな時代に水族館に何しに行くの?
魚が見たければいくらでも魚が並んでるし、最近のお寿司屋さんには生簀だってある。
っていうかその前にそんなデートスポットに青と一緒に行くなんて嫌だ。
あたしは青にまったく恋愛感情なんてないし、どう考えても無理だ。
よし、そう決めたら早い。カチカチとメールを打ち始めて返事を送った。
"居酒屋のほうがいいな"
そう送れば普通に返事が返ってくるだろう。
あたしはそう思ってまったく青のことは忘れていた。
それがまさかこんな風に来るとは思わなかったけど・・・。
"俺のこと異性として見られないなら付き合いはやめてくれ"
5分後に来たそのメールであたしは苦悩への道、つまり最初の場面にさらされることになった。
だから今更、異性なんて無理だって。
でもこれはわがままかもしれないけど付き合いをやめるとなると寂しいんだよね。
だって今まで続いた友達がパタンと音を立てて消えるってことだから
あたしの携帯にも青からのメールがなくなるってわけでしょ。
友達の瑞海が言ってたけどやっぱり長年続いたメールの相手がなくなると
携帯の住人がいなくなったみたいで寂しいって言ってたし。
瑞海もメル友がいたみたいだけど会わずにずっとメールだけだったから
その人は携帯の住人みたいなことを言ってた。
ただその相手に彼女ができて終わったみたいだけど、3年続いたって言ってたな。
あたしも青と縁を切るとそうなるのかな。
"やっぱり異性としてみるのは無理。でも縁を切るのはちょっとな"
そんなふうにメールを打って送信した。
やっぱりあたしも青を失うのはそうとうの覚悟がいるみたい。
でも絶対に恋愛対象なんて無理だし、
これ以上期待を持たせないためにもここは一つやっぱり縁を切るべきなのかもしれないな。
"少し考えてみる"
そのメールを最後にそれから何日間か青からのメールは途絶えた。
もともと毎日のようにメールをしてたわけじゃないから
それほど気にはならなかったけどさすがにあたしもメールを送りづらいとは思ってた。
このまま終わるんじゃないかなって。そんなときだった。青からメールがきたのは。
"何日間か考えたけどこないだ言ったことはなかったことにしてくれ。
やっぱり長年続いた友達を失うのは俺も寂しい。
もし憂奈に好きな人ができたら耐えられないとか思ったけどそれでも
やっぱり憂奈を失いたくない。
憂奈がもし俺を好きになったら言ってくれ。そのときは大歓迎だから"
はぁ。なんだかよく分からないけどとにかく一人で悩んで青は結論を出したらしい。
結局縁を切る話はなくなったけど、
やっぱり青を恋愛感情を持って見れないならこの関係はもうやめたほうがいいのかもしれない
な。
数日後、今日は瑞海と会う約束をしていた。瑞海とは幼なじみで青のことも話していた。
会って最初は他愛のない話をしていた。おいしいケーキに舌鼓を打ちながら。
「そういえば前言ってた人はどうなったの?」
「え?ああ。うん・・・」
あたしは瑞海に話した。時折青からのメールを見せながら。
その方が伝わりやすいだろうなって思って・・・
瑞海は笑っちゃいけないねといいつつも青のメールを読みながら笑っていた。
あたしだって笑いたくなるよ。こんなメール。
「でもさあ、この人って賭けに出たんじゃないの?」
「賭け?」
「だからこうやって言えば憂奈が自分を好きになってくれるかもしれないって
思ったんだと思うのね。でも憂奈はむしろ縁を切ってもいいって思ったんでしょ?
そうなるとやばいと思って前言撤回をしてきたんだろうね」
なるほど。でもそんなこと言われても考えっていうか気持ちは変わらないしな。
でもそんな単純な手に乗るなんて思ったのかな。だったらもう救いようがないな。
「やっぱ、じゃあ縁を切ったほうがいいのかな」
「んーそれはこの人望んでないんじゃない。だったら今のままでいいんじゃないかな」
そうかなぁ。
けっこう自分でも酷なことしてるんじゃないのかなって最近思うようになってきたけど。
でもやっぱり男女間の友情って成立しないのかな。
「やっぱり異性の友達ってないのかな?」
「んーそれは捕らえ方次第じゃないかな。まぁ確かにどちらかに恋愛感情があれば、
大変かもしれないけど」
「そうだよね」
「でも憂奈がそんなに考えることじゃないんじゃない。
向こうがなんか言ってこれば考えればいいけどとりあえず今はもう落ち着いてるなら
そのままで」
そうだよね。成立しないものは成立しないときにまた考えればいいし。
どう考えても好きになれない人は好きになれないし。
もしまた青がそんなこと言ってこれば考えよう。
とりあえずあたしの中で青は彼氏には絶対に昇格できない男友達ってことでいいか。
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