Special sweets
あれから私たちは付き合い始めた。すっかりお菓子作りに目覚めた私。
お母さんは喜んでくれている。
私がお菓子食べれなかったこと一番気にしてたのはお母さんなのかもしれない。
お菓子大好きの慎哉のために作っているんだけど私も味見するのがとっても楽しい。
女の子に生まれてきてよかった。
「慎哉今日はチーズケーキを作ってきたよ」
「おお。うまそう」
私が机の上にそっとタッパーを置くと嬉しそうに彼が笑顔を浮かべてくれる。
この笑顔が欲しかった。いつも他の子に向けられている笑顔。
今では一人占めできてほんとに幸せだな。
彼が口にチーズケーキを運ぶ。
味見したときはおいしいって思ったんだけどお母さんもおいしいって言ってくれたけど
慎哉の口に合うかな。じっと彼の顔を見てみる。
「そんなにじっと見なくてもうまいから安心しろよ」
私の頭にそっと手を置いてまた笑顔を見せてくれた。よかった。
もうこの笑顔を見れるだけで作ってきてよかったって思える。
お菓子嫌いなんて言ってた自分がもったいない。ほんと慎哉のクッキーのおかげ。
「でも早瀬、ほんとにお菓子作りの才能あるかもな」
「そんなことないよ」
あー。せっかくすごく有頂天にいたのに一気に気分が下がっちゃった。
彼が褒めてくれているのはすごく嬉しいことなのに苗字呼ばれ。
私はずっと慎哉って呼びたかったから慎哉って呼んでるけど
付き合って一ヶ月も経つのに彼はまだ私を早瀬って呼ぶ。
わがままだけど名前で呼ばれたいなって思う。
「どうした?なんか急に元気なくなった感じがするけど?」
「う、ううん。そんなことないよ」
嫌われたくないから名前で呼んでなんて言えないんだけどね。
でもそれくらいわかってほしい。
クラスで付き合ってる子が名前で呼び合ってるのがうらやましい。
慎哉ってそれほど私のこと好きじゃないのかもしれない。
「そうか?でもほんとお菓子うまかったからな」
「うん。ありがとう」
チャイムが鳴ったので私は席に戻った。
あれから席替えがあって私たちは離れてしまった。
慎哉は私の列の一番後ろで私は前から二番目。
ちなみに慎哉の隣は歩美。
歩美は代わろうかって言ってくれたけど遠慮した。
「早瀬ってさ、お菓子作るのうまいんだよな?」
「え?」
「あ、ごめんな。いつも高木にお菓子作ってきてるだろ?
それ見ててうまそうだなって思ったんだ」
私が少し暗い気持ちで黒板の文字をノートに写してると
隣の席の栄くんが話しかけてきた。
栄くんには同じクラスに新条伊咲さんっていう彼女がいる。
話したことはないけどとてもかわいらしい女の子。
いつも名前で呼び合っててうらやましいなって思う。
「あ、うん」
「俺の彼女がさ、早瀬のお菓子食べてみたいって言ってるんだ」
「私の?」
「高木がいつもうまそうに食ってるの見てうらやましいらしいんだけど
やっぱ話したことないし、直接言いづらいらしくてさ。
あいつに作ってやってもらえるかな」
「うん。いいよ。明日作ってくるね」
「悪いな」
「じゃ栄くんに渡したらいいかな?」
「おう。じゃ明日の放課後に屋上でもらうわ。教室なら誤解されると困るしな」
「了解」
「栄くんってほんとに彼女のこと好きなんだね」
「え?いや、まあな。でもお前も高木といい感じじゃねえか」
「・・・そうかな。でも名前で呼んでもらえないけどね」
なんてぼそっと本音が出てしまった。
でも私のお菓子が食べたいなんて言ってくれる人がいて嬉しい。
少し前の私が驚くだろうな。こんなにお菓子にハマってるなんて。
新条さんに何を作ってあげようかななんて
私は授業もおろそかにそんなことを考えていた。
「ごめんね。今日先に帰るね」
慎哉にそう言って私は授業が終わるとすぐに教室を出た。
そのままお菓子の材料を買いに行くから慎哉を連れまわすと悪いしね。
それにしてもなんだかとても作りがいがある。
慎哉以外の人のためにお菓子を作るなんて初めてかもしれない。
歩美は食べてくれるけど。
少しうきうきした気分で私はスーパーに向かった。もう作るものは決まっている。
あのクッキー。
「ただいま」
材料をテーブルに置いて一度部屋に行って着替えてすぐにまたキッチンに戻ると
お母さんが晩御飯の準備をしていたのでそれが終わるまでテレビを見ながら休憩。
「今日はやけに嬉しそうね」
「うん。今日は張り切ってクッキー作るんだ」
「じゃ、早めに晩御飯作っちゃうわね」
お母さんがそう言っておなべをかき回す。
数分後にお母さんからキッチンの使用許可が出たので
早速材料を準備してクッキーを作り始める。
あのクッキーを作るのは慎哉に告白した以来なのでドキドキしてた。
一生懸命手順を追いながら作り始めた。
そして出来あがったクッキーは我ながら上出来。
明日新条さんに渡すのが楽しみ。
「慎哉、ごめん。今日お菓子・・・忘れちゃった」
翌日、学校に着いて思い出した。
新条さんに渡すためのクッキーしか持ってこなかったこと。
慎哉にすごく悪い気持ちになりながら頭を下げたらいいよって許してくれた。
あーやっぱり慎哉のこと好きだなって思う。明日はほんといっぱい作ってくるから。
放課後になって私は屋上にクッキーを持っていった。
「はい。栄くん」
「悪かったな」
「ううん。嬉しかったよ。でも味の保障はしないかも」
「了解」
「おい。待てよ」
栄くんにクッキーを渡した瞬間に慎哉が屋上にやってきた。すごい剣幕で。
まるであの黒板に追い詰められたような顔をして怒ってる。
どんどんと私たちに近づいてきて栄くんに渡したクッキーを取り上げる。
「お前に食わせるものなんてねえんだよ」
「ちょ、ちょっと慎哉、何言ってるの」
「悪いけどそれは俺がもらったものだから返してくれるか」
「誰がやるか。これは俺のなんだよ。こいつは俺の彼女で
こいつが作るものは全部俺だけのものなんだ」
「へえ。でもそれは早瀬が俺に作ってくれたものなんだけど」
「何意味不明なこと言ってるんだ。早瀬がお前に作るわけねえだろ」
「美咲ちゃんが俺に作ってくれたんだよ」
「美咲ちゃんだと?てめえふざけたこと言いやがって。
美咲は俺にしか作らねえんだよ!!」
「・・・だとさ。よかったな。早瀬。じゃ、これはもらっていくからな。
これは俺の彼女の伊咲のために作ってくれたもんだしな」
そう言って慎哉の手からひょいとクッキーの袋を取り上げて
栄くんは屋上を出て行ってしまった。
実はこれ慎哉が私のことを好きかどうか試すために栄くんが考えてくれたものだった。
でも慎哉が怒ってるのがわかる。私のほうに振り向いてどんどんと近寄ってくる。
まさにあの時みたい。下がるところまで下がったらもう逃げられなくなった。
「おい・・・」
「ごめんなさい。でも・・・ほんとにあれは新条さんに作ったものなの」
「・・・・」
「それに慎哉、名前で呼んでくれないし・・・不安だったんだもん。
だから栄くんにちょっと本音こぼしたら・・・」
「・・・美咲、頼むからもう他のやつにお菓子やるな。ごめん。
そんな不安になってるとか思わなかった。
俺、あんまり女の子を名前で呼んだりしなかったから。恥ずかしかったんだ」
「慎哉・・・」
ぎゅっと抱きしめられた。初めて名前で呼んでもらえた。いやさっきもそうだけど。
目を見て呼んでもらえた。それにすごくヤキモチ妬いてくれた。
私だけが好きじゃなかったんだ。よかった。
今日はお菓子がないから代わりに甘いものをあげる。
そっと私は体を離して慎哉にキスをした。
今日はとびっきり甘いお菓子をプレゼント。
☆5000hit☆のリクでふゆさんからいただきました。
この小説は相互してくださっている神楽茉莉さんのサイトの
一周年記念小説としてプレゼントさせていただいたものなので
まさかリクエストがいただけるとは思ってもみませんでした。
リク内容は「美咲が慎哉以外の男の子にお菓子を渡して・・・」
という内容だったんですがいかがでしょうか?
ちなみに栄くんは『シャボン玉』からゲスト出演してもらいました(笑)
ふゆさん本当にありがとうございました^^*
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