銭湯にLet'S go〜♪
〜Friend〜



今日は大晦日。今年はいろいろあったななんてあたしは掃除をしながら思い出していた。
そう。今年はとても充実してたと思う。
去年じゃまったく予想できない一年だったんじゃないかな。


「なあお前らこの銭湯を復活させないか?」


夏休み、家のお風呂をリフォームすることになってたまたま見つけた一つの銭湯。
そこには卓真がいて卓真に言われてその銭湯を復活させることになった。

そしてそこで出会った一人の少年、下野夏柘。
最初はしっかりしてるなって思ったら実は小学生。
人妻との不倫なんていうありえない行動をして、最後は昼ドラのパクリ。
なんていうやつだなんて思ったけどすっかりあたしは彼にハマってしまった。そしていろいろ
あったけどあたしと夏柘は付き合うことになった。

そう。そして付き合って初めて迎えたクリスマスイヴ。
中学生と小学生のクリスマスイヴなんだから恋人同士なんて意識するのは少し早いのかも
しれないけどでもやっぱり初めてのイヴなんだから期待するでしょ。
それなのに・・・あの日はほんとすごい一日だったな。



イヴの10日前に突然決まった今日の過ごし方。あたしだって仮にも彼氏がいるわけなんだから
二人で過ごしたい。それなのに寒空の中、あたしたちはある行列に並んでいた。
たちっていうのはもちろん二人っきりじゃない。あと一人余計な人物がいたりするわけで・・・。


「いや、待ちに待った日が来たって感じだな」


ニット帽に手編みのマフラーを巻いた一人の男。別名邪魔者卓真。
そう。すべてはこいつのせい。あたしたちが二人でイヴを過ごせない元凶。
ゲームを買いに行くから夏柘についてきてほしいと頼み、あげくあたしが怒鳴りに行ったら
あたしまでもがそれについて行かされることになった。
行きたいわけないけど夏柘が行くんだもの。行かないわけに行かない。
そしてあたしたちは早朝6時からこの行列に並んでいるわけ。


「柚、ごめんな」
「夏柘のせいじゃないわよ。あのバカが悪いの」
「でも・・・せっかくのイヴなのに・・・」
「いいよ。こうして一緒に過ごせてるんだから」


過ごし方はどうあれ一緒に過ごしてるのには間違いないわけだから一応彼氏と過ごすイヴ
なんだよね。でも、余計なのがいなかったらもっと楽しく過ごせたのにな。
そんなことを思いながらカバンの中のプレゼントをいつ渡そうかななんて考えてるあたし。

こんな一日だけどプレゼントはちゃんと用意した。
もちろんあたしはまだ自分でお金を稼げるわけじゃないから手作りになっちゃったんだけどね。
恥ずかしながらに編んだ手編みのマフラー。
お母さんに編み方を教えてもらおうとしたら知らないって言われて頼りにしたのが
なんと卓真のお母さん。実は卓真のお母さんはすごく裁縫が得意だったりする。
卓真が巻いてるあのマフラーもお母さんが編んだんだって言ってた。
だからあたしは意を決してお母さんに頼むと喜んで教えてくれた。


「私、嬉しいわ。正直、柚ちゃんには嫌われてるって思ってたから」
「そ、そんな」
「でもあなたたちのおかげで卓真ともうまくいくようになった。だから感謝してるのよ」
「・・・夏柘のことはもうなんとも思ってないんですか?」
「そうね。彼にも感謝はしてるけど今はもうなんとも思ってないわ。だから柚ちゃん、彼のことよ
ろしくね。って私が言うことでもないか」

11月の中旬に卓真の家を訪ねていくとお母さんがあたしにそう言った。
やっぱり夏柘の元彼女になるわけだからその時はまだ警戒してたりもしたんだけど
その言葉であたしは安心することが出来た。
それからはもう編み物の先生で、お母さんも卓真とおじさんに新しく手袋を編んでいた。
そうしてようやく出来たマフラー。初めて作ったものだからやっぱりところどころ歪になったりも
したんだけどなんとか形になったかな。あーさっさとゲームを買って卓真と別行動したい。


「よっしゃー。念願のゲームゲット」
「よかったわね。朝早くから並んだ甲斐があったじゃない」
「まあな。お前らには感謝する。よし、じゃ次どこ行くか?」


は?何を言ってるの?行列に並ぶこと3時間。本当に眠かった。それに寒かった。
だけどこの後夏柘と過ごすんだからやっぱりおしゃれしたわけ。
白のセーターにデニムスカート。それにコートを羽織った。
雪が降りそうでちょっと寒かったけどこれを着たいって思ったから着た。
そしてようやく解放されるって思ったのに何を言ってるのよ。


「決まってるだろ。今日はずっと三人で過ごす気だからな、俺」


なんですと?いま何とおっしゃいました?冗談よね?
だってこれが終わったら二人で過ごせるって思ってたんだもん。
それなのに卓真はさっさと歩き出した。


「・・・どういうこと?」
「さ、さあ」
「いやよ。あたし、あんなのと三人で過ごすなんて」
「・・・でも、一人にするわけにいかないからなあ」


ちょっと夏柘、本気じゃないわよね?
あたしの願いもむなしく夏柘は卓真を追って行ってしまった。冗談でしょ?
結局あたしもここに一人で突っ立ってるわけにもいかず、二人の後を追った。
それからは最悪だった。

初めての朝マックもあたしの向かいと夏柘の隣にちゃっかり居座るし、
ぶらぶらと買い物するも真ん中に割って入ってくる。
おかげで夏柘に触れることすら出来なかった。


「よし、そろそろ行くか」


見事一日あたしたちを振り回した卓真はまた勝手にさっさと自分の目的の場所へと
歩き始めた。さすがにもう限界。こんな最悪なイヴなんてありえない。
そう思って立ち止まっていたら夏柘があたしの手を握った。もしかして二人で逃げ出すのかな。


「柚、行こう」
「・・・まだ卓真と一緒に過ごすの?もう嫌。初めての・・・あたしたちの初めてのイヴよ。
なんで卓真とずっと一緒に行動しなくちゃいけないの?」

「・・・俺はまだ小学生だよ」
「夏柘?」
「俺はどんなに頑張ってもまだ小学生。だから柚の思ってるイヴの過ごし方なんて
到底出来ない。まだ自分一人で金を稼ぐことも出来ない。
柚を喜ばせてあげることも出来ない。
・・・こんなこと言ったらひどいかもしれないけど俺、正直卓真に誘われてよかったって思った」


夏柘の言葉に絶句した。イヴを二人で過ごしたいって思ってたのはあたしだけ?
何も期待してなかった。小学生が完璧なイヴの計画を立ててたらそれこそおかしいもん。
でもそんなんじゃない。一緒に、二人で過ごしたかった。ただそれだけなのに。

夏柘に握られた手をそっと離そうとした。もう帰る。
でも夏柘は手を離すことなく、強く力を込めて握った。
そして黙ったまま近くの公園に移動した。
二人で寒空のベンチに座っても握られた手は離れることがなかった。
そしてようやく夏柘が口を開いた。


「・・・俺、あの人と付き合ってるとき、自分にすごく無理してた。
だからこそ、柚の前ではありのままの自分でいたいんだ。
飾らず背伸びしないで自分に合った付き合いを柚としたい。
二人で過ごせばきっと俺は背伸びしてしまう。そうじゃなくて楽しくワイワイと過ごしたいんだ。
今まではそんなのは子供だって思ったんだけどそういうことって今しか出来ないことかも
しれない。大人になればずっと二人で過ごすイヴになるんだから」
「夏柘」

あたしはどうして二人っきりのイヴに囚われていたんだろう。
きっとカップルは二人で過ごすもんだってどこかで決め付けていたのかもしれない。
でもそれってオトナのことで。
別にあたしたちは二人っきりで過ごさなきゃいけないわけでもない。
それにもし本当にあたしの願いが叶って二人っきりで過ごせたとしても・・・
それが本当に楽しかったのかなんてわからない。
三人はすごくうんざりしたけど卓真のおかげで無言になることはなかったかもしれない。


「夏柘・・・」
「あ、卓真が戻ってきたみたいだ」


卓真はあたしたちの姿を見つけて小走りになる。どうやら右手には何か持ってるみたい。
赤い袋。一体なんだろう。


「ごくろうさま」
「おう。夏柘も柚の子守りお疲れ」
「子守り?!何ですって!」
「まあまあ落ち着いて。はい。柚。クリスマスプレゼント。俺と卓真から」


そう言って夏柘から卓真の持っていた赤い袋を渡された。卓真と夏柘から?
二人を見ると顎で開けるように促される。あたしはその袋をそっと開けてみた。


「かわいい」


中に入っていたのは小さなくまのぬいぐるみ。
24日三人で過ごすことになったって決まった10日前に二人で買いに行ってくれたらしい。
そしてそれをお店に取り置きしてもらっていたとか。


「ありがとう」
「ごめんね。こんなものしか用意できなくて」
「ううん。嬉しい。そうだ。あたしからもプレゼントがあるの」


あたしはそう言って用意したプレゼントを夏柘に渡した。夏柘は目を丸くして驚いてる。
開けてもいい?って聞かれたから即座に頷いた。


「これ・・・」
「あたしが作ったの。歪でたいしたものじゃないけど卓真の・・・卓真?」
「おい。お前ら俺のこと無視してラブラブモードになってんじゃねえよ」


卓真のことすっかり忘れてた。夏柘のプレゼントしか考えてなかったのよね。
んーあ、そうだ。さっき買ったものがあったんだ。あたしはそれを思い出してカバンを開ける。
さっき思わず目に入ったから買ったんだよね。二人がトイレに行ってる間に。


「はい。卓真にこれあげる」
「え?俺にも何か用意してくれてたのか?・・・ってこれなんだよ」
「見ての通りの耳かきだけど」
「はあ?・・・なんだよこれー!!持ち手が耳の形じゃねえか!!」


そう。面白いから買った持ち手が耳の形をした耳かき。
けっこう高かったのよ300円もしたんだから。
でもこんなかわいいプレゼントもらったんだもんね。
夏柘は早速首に巻いてくれてるし、あたしもこのくますごく気に入った。
彼氏と過ごす初めてのイヴは二人っきりじゃなかったけどこんなのもありかな。


「メリークリスマス」


「あ、もうこんな時間だ。紅白見なきゃ。来年もいい年になりますように」