☆☆シャボン玉〜next day〜☆☆



今日からいつもと違う一日になる。

俺と伊咲が恋人同士になって迎える学校。

あいつはまた夢の中だったなんて

昨日のことを思ってないだろうな?

なんて一抹の不安を抱えながら俺は学校に向かった。

やっぱり。

伊咲はいつものように花屋の前で俺を待ってる。

まあ正式に言えば待ち伏せしてる。

俺は伊咲に気付かれないように彼女の後ろに行った。


「何してるんだ?」

「きゃ。あ、栄。おはよう奇遇だね」


俺の声に反応して伊咲が振り向く。

肩までの髪が揺れた。

大きな瞳に頬赤らめて

、一体お前は何してるんだよ。

俺は少し肩を落としかけた。

まったくこいつは手に負えねえな。


「お前、何してんの?」

「え?いや・・・」

「昨日俺の告白OKしてくれたんじゃなかったっけ?
それともまた下駄箱で会話して終了?」

「あれシャボン玉の中じゃなかったんだ。
やだ。いっぱい話したいもん」


やっぱり夢の中だと思ってたのかよ。

まったく困ったやつだぜ。

俺は現実だよと言って伊咲の肩を抱く。

ほんとだったんだって言いながら俯いてるけど

ほんとこれじゃ先が思いやられるな。


「ねえし、芯悟くんでいいの?」

「当たり前だろ。ってかそれでしか呼ぶな」


顔を上げて俺を上目遣いで見る。

俺のほうが恥ずかしくなって視線を逸らす。

こいつわかってやってんのか

それともただの天然なのか。

とにかく突然そんなことされたら俺が困る。

まったくこいつの妄想癖はしゃれにならないからな。

いい加減夢から覚めてもらわねえと

俺が泣いちまいそうだぜ。


「じゃあね。肩じゃなくって手がいいな」

「え?」

「こっちのほうがいいな」


伊咲がそう言って俺の手を握る。

小さい手だな。

昨日抱きしめたときも思ったけど

こいつってすげえ小さいな。

なんか小動物みたいだ。

伊咲は俺の手をすごく嬉しそうに握ってる。

あーどうしたらこいつが俺の彼女だって

ちゃんとわかってくれんのかな。


「さ、芯悟くんの手って大きいね」

「お前が小さいだけだろ」


伊咲は女子の中では普通くらいだと思う。

身長だって155cmくらいだし。

俺がでかすぎるのか?

それにしてもこいつはかわいい。

仕草とかそういうのとか見てても飽きないし。

今何時くらいだろうね?と

伊咲がポケットから携帯を取り出す。

ふと目をやると

俺があげたおまけのストラップが揺れてる。

こんなものまだ持ってたなんて。

そう思うとますますこいつが愛しくなった。


「ねえ芯悟くん」

「どうした?」

「あたしパンが食べたいな。メロンパン」

「は?」

「ね、買いに行こう」


そう言って伊咲は学校とは反対のほうに歩き出す。

もちろん手をつないでるから俺も一緒だ。

こいつは時々わけのわからないことをする。

たとえば校庭で昼寝とか。

でも一番参ったのは

もう栄に話しかけないって言われたことだな。

あれは一瞬何が起きたのかすら理解できなかった。

でもそれがあったから今、伊咲は俺の彼女なんだけど。


「今日ね、シャボン玉でメロンパン食べたの。
栄、じゃない芯悟くんと」

「で、それを現実にするためにメロンパン買いにいくのか?」

「うん。だって芯悟くんとメロンパン食べたいんだもん」


そんなこと言われたら遅刻しても仕方ないな。

しかし、シャボン玉にまだこだわるのか?

まだ俺信頼してもらえてないのかな。


「お前まだ・・・」

「え?」

「いや日曜日暇?」

「うん」

「じゃあ見たい映画があるんだけど行かね?」

「うん」


すっごく目を輝かせて俺を見て最高の笑顔をする伊咲。

初めてのデートだねって顔を赤らめて。

もっと俺だけを信用してくれるようになれば完璧だけど

それよりも今は焼きたてのメロンパンを

伊咲と食べることが先決かもな。