百人一首という名のいろじかけ(笑)



あたしたちは一応付き合い始めた。

だけど、あたしにはどうしても気になってることがあるの。

でも隼人は絶対に聞いてもはぐらかすと思うのよ!あの話。

だけどあたしはなんだかそれが腑に落ちないのよね。

付き合ってる二人なんだし、隠し事なんてよくないでしょ。


「ねえ、隼人ゲームしない?」


とある日曜の昼下がり。

本当ならラブラブデートのはずだったのに雨が降って中止。

あたし雨の日は外に出たくないのよね。

それに毎日こうやって隼人に会ってるんだもん。

わざわざ雨の日に外出しなくたって家でまったりできるんだから。

ただし・・・お堂だけど。

一応寝室として使ってる部屋に寝転がってる隼人にあたしは声を掛けた。

そうそう、あの見られてはいけない現場をおじいに見られたせいで

あたししばらくは自分の部屋に戻されたのよ。

おじいなんてしばらくはお堂に足を入れることも許可してくれなかったんだから。

ほとぼりが冷めてようやく許可が出たのは一ヶ月後。

隼人が精一杯修行したことの評価とキス以上は手を出さないという条件付きで


「ゲーム?」

「そう。せっかくだし、罰ゲーム付きでやりましょう」

「おもしろそうだな。じゃ、俺が勝ったら・・・未彩からキス。いやなんなら・・・」

「・・・エロ。おじいにまた怒られるわよ。ま、いいわ。
あたしが勝つのは目に見えてるもの。あたしが勝ったら・・・
あの百人一首の意味教えてもらうからね」

「・・・(まだ覚えてたのかよ)」


そう。気になって気になって仕方なかったのよ。あの百人一首の意味。

そりゃ調べたらいいだろうけどなんせこの寺にはパソコンなんてハイテクなものはないの。

図書館で調べるなんてもう活字嫌いなあたしには無理だし。

ってことでやっぱり本人から聞くしかないと。

でも隼人がそこまで嫌がるって一体どんな意味があるのかしら?


「じゃ、百人一首で勝負よ」

「・・・お前、俺にそんなにキスしたかったのか。
言っとくけど俺は小学校のときに百人一首大会で優勝したことがあるんだ。
そんな俺に負けの勝負を挑んでくるなんて・・・」


甘い。甘いわ。辻宮隼人。あたしを誰だと思ってるの?

元百戦錬磨の岩瀬未彩ちゃんよ。正当法で勝てるなんてまったくもって思ってない。

昔の隼人にはまったく通用しなかったけど今ではただの男。

負けて悔しそうな顔を浮かべるのは隼人なのよ。

あたしはにこっと笑みを返した。今日こそは絶対にあの謎解いてやるんだから。

そうと決まれば早いのよ。

あたしは家に帰って押入れから百人一首を取り出し、

部屋から寝転ぶ依智の手を無理やり引っ張ってお堂に連れてきた。

読み手が必要だもんね。箱を開けて中から札を取り出す。

それにしてもこの絵趣味悪いわね。こんな人たちが昔の美人でしょ。

あたしのほうがかわいいじゃない。


「おい未彩早く並べろよ。何じっと札見つめてんだよ」

「・・・やっぱりあたしのほうがかわいいわよ」

「「はっ?!」」

「だってどう見たってあたしのほうがかわいいでしょ?」

「お前バカかよ!百人一首の絵と自分を比べてもしょうがないだろうが」

「おい!依智。俺の未彩にバカとか言うな」

「え?だってバカだろう?」

「・・・そんな未彩でも可愛いんだよ」

「・・・(隼人、完全にキャラ変わってるよ)あーもうさっさと並べようぜ。
いつまで経ってもできないぞ」


なぜだか一番やる気になった依智が畳の上に札を並べ始めた。

隼人の前に50枚。あたしの前に50枚。

源平合戦で先に自分の前に並んだ札がなくなったほうが勝ち。

さっき隼人は自分は百人一首の大会で優勝したからハンデあり。

だってあたしはまーったくわからないんだもん。それでも秘策があるの。

だから隼人は下の句を読み直したときにしか取っちゃダメなのよ。

あーそれにしてもなんで百人一首の意味くらい簡単に教えてくれないのよ。


「よし、並んだな。あ、未彩お前の前の札がズレてるぞ」

「え?そう?」

「そうだよ。ほら」


依智は超がつくほどの神経質。少しのズレも許せないような完全主義。

まったくあたしの弟とは思えないくらい。

依智がきっちりとズレを直していざゲーム開始。

隼人くんごめんだけどこの勝負はあたしが勝つからね。

実は百人一首の意味が聞きたいのもあるけど、

あたし隼人が負けるところ見るのが楽しみなの。

だってなんだかあたしいつも隼人に負けてる気がするんだもの。

だから勝ってみたいの。許してね隼人。



「これやこの・・・ゆくも帰るもわかれては・・・知るも知らぬも・・・逢坂の関」

依智が読む。あたしはゆっくりと隼人の目線を追う。

やっぱりね。だいたい目処は立っているみたい。

隼人が手を伸ばした。札に触れる前にそっとその手に自分の手を重ねたりなんかして。

そしたら隼人があたしの目を見た。

にっこりと笑って返すと隼人が赤くなる。あ、札発見。


「はい」


あたしはこれを何度も繰り返してる。ごめんね。色気つかいまくりで。

でも隼人にしかしないわよ。

読み手の依智が呆れようが隼人が赤くなろうがそれでもあたしは負けたくないの。

気がつけばあたしの手元の札は残り一枚。しかもあの札。


「筑波嶺の峰よりおつるみなの川・・・」

「はい」


依智が下の句を読む前にゲット。やったー!!あたしの勝ち。

依智はこんな勝負やってらんねえと家に帰ってしまった。

さあ隼人。吐いてもらうわよ。この百人一首の意味。


「・・・やりやがったな」

「あらー勝ちは勝ちでしょ。それにしてもほんとに優勝したの?
あたしの膝元にも及ばないじゃない。さー言ってよ。この札の意味」


あたしは札を両手の親指と人差し指で持って隼人に向ける。

むすっとした隼人の顔。ちょっとかわいい。

でもそれとこれとは別なのよ。聞きたいの。どういう意味かって。


「・・・お前が好きなんだ。それなのにお前と来たら寺元とキスなんかしやがって。
そりゃお前は俺のもんじゃない。だけど腹が立って仕方がない。
最初は同じクラスで顔を合わせるだけでよかったのにいつしか独占欲とか嫉妬とかいらない
感情まで出てきて・・・つまり川が濁ってるのを見て最初は透き通ってた川も段々濁ってくるって
いうことを恋に置き換えて作ったんだよ」

「そ、そう」

なんだかあたしすごい告白を聞かされたような気がするんだけど。

隼人は顔全体が真っ赤になってるし、そういう意味だったんだ。

なんともいえない空気が漂ってるんだけど。

「・・・あ、片付けないとね」

あたしが散らばった札を片付け始めるとその手をぎゅっと握られた。

そのままあたしが固まってると隼人がキスしてきた。長い。長いわよ。息が出来ない。


ガラっ


「・・・お邪魔しました」


ふすまが開けられてあたしは依智と目が合ってしまった。

いやー弟にキスシーン見られた。岩瀬未彩一生の不覚。

ちょっと隼人いつまでやってんのよ。結局唇を離してくれたのはそれから5分後だった。